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ネコ・シッター石川結望の業務日誌:9話完結:毎日更新(昼12時)  作者: 秋月心文


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2/8

だるまさんがころんだ

 一週間で、ここのネコに懐いてもらわなければならない。

 それが、私の採用条件だった。


 その初日。

 私に割り当てられた部屋には、寝具一式だけが置かれていた。

 家具を運び込むのは、採用後だ。それまで我慢だ。


「おはようございます」

 私の分まで、温かい朝食を用意してくれていた。うれしい。

 綾瀬家の朝食は洋食と決まっているらしい。

 焼きたてのトーストに、ジャムが何種類も用意されている。

「おいしい!」

 自家製食パンらしい。すっご。

 サラダにハムに目玉焼きもいい感じ。

 毎日、これが食べられるなら頑張るか。


「寝泊まりしながら、懐くのを待ってもいいですか?」

「いいけど、そうしても残業代出ないわよ」

「構いません。このコと仲良くなりたいだけなんで」

「布団は悪戯されると困るので、夜寝る時だけ運んでね」

「承知しました」


 朝食後、ネコを引き継ぐ。タイムカードを押す。

 娘さんの結希ゆうきさんから手渡されると、大人しく抱かせてくれるんだよなぁ。


「さぁ、ここからが私のターンだ」

 アズキを連れてネコ部屋に向かう。

 ネコ部屋は電子ロック付きの二重扉になっていて、私のネームカードをかざさないと開かない。


 ネコ部屋に着くと、アズキはスルリと私の手を離れ、ひなたぼっこできる窓のそばに駆けていった。


 少し様子を見るか。

 見ていると、ずっと寝ている。

 目を離すと、何かが倒れたり落ちる音がする。

 もう1度見ると、違う場所で寝ている。

 これは、もう「だるまさんがころんだ」だ。


 鏡ごしにアズキを見る。

 見てないと思って、いろいろやらかしてくれる。

「アズキ~」と呼ぶとピクっと反応して動きが止まる。

 くるッと振り向くと寝たふり。

 お前、どんだけネコ被ってるのよ。

 まぁ、ネコだけど。


 しかたないので「だるまさんがころんだ」で遊んだ。

 いかん。

 だんだん楽しくなってきた。


 家内放送で呼ばれた。

結望ゆのちゃん、お昼出来たよ~。昼休憩入って~=

 私は、アズキを置いてリビングへ。

 昼食を堪能していると、ふと気づいた。

 ……早く戻って、アズキと遊びたい。

 私、もうアズキのことが気になってるじゃん。

 まだ初日なのに。


 アズキと遊んでいるのか、

 アズキに遊ばれてるのかはわからんけど。


 近くにおやつを置いて、

 「だるまさんがころんだ」をしてみた。

 見てないとだんだん近づいてくる。

 振り向くと寝たふり。

 いや、少しずつ近づいてるので、寝てないのわかってるからね。


 そろそろ懐いたかなと思った。

 寝てるフリをしている場所に近づいて、膝にのせてみた。

 スルリと抜けて、別の場所へ行ってしまった。

 でも、威嚇とかはしない。


 ダメかぁ。

 まだかぁ。


 結局、今日の業務時間中に、アズキに懐いてもらうまではいかなかった。

 タイムカードを押し、今日の業務を終える。

 美味しい夕食をご家族の方と一緒にいただく。


 今日は、アズキをお借りしてネコ部屋で寝ることを許可してもらった。

 娘の結希さんが寝る時間だけ、アズキを借りることになっている。

 結希さんも、アズキと一緒に寝たかったかもしれない。

 すまない思いを感じつつも、私も仕事がかかっている。

 ここは譲れない。


 夜になった。


結望ゆのさん、アズキをよろしく」

「はい、お預かりします」

 さぁ、アズキ、ネコ部屋行くよ。

 結希さんの方を見ながらニャ~ニャ~と鳴くアズキを見ていると、少し気が引けた。


 ネコ部屋につくと、少し静かになった。

 落ち着いたかな。


 そう思って電気を消したら……。

 顔をぺちぺち叩いてくる。

 目を開けると、ニャ~ニャ~鳴く。

 ドアのところまでダッシュ。

 もう1度、ニャ~ニャ~鳴く。

 ん~。

 これは、結希ゆうきさんのところに帰せと……。


 とりあえず、スルーしてみよう。

 やっぱり顔をぺちぺち叩いてくる。

 目を開けると、ニャ~ニャ~。


「あ~、わかりました。わかりました」

 アズキを連れて、結希ゆうきさんの部屋をノックする。

「すみません。やっぱり、このコ、結希ゆうきさんといたいって……」

「しょうがないなぁ~。アズキ、それじゃ一緒に寝ようか」

 ニャ~。甘い感じの鳴き方だ。

 差を感じさせられる。

 こうして、私の1日目は終わった。

 ……アズキには、まだ懐いてもらえていない。

 お読みいただき、ありがとうございます!


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