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ネコ・シッター石川結望の業務日誌:9話完結:毎日更新(昼12時)  作者: 秋月心文


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1/9

採用を決めるのは、ネコ。

 私は、石川 結望ゆの

 雇い止めになってしまった。

 学校を卒業して、ずっと働いてきた会社だ。

 先月まで、馬車馬のように働いたつもりだったんだけどな。

 こんなにアッサリ切られるとは思わなかった。


 とにかく、職を探さなくては。

 でも、こんなことになるとは思ってなかったから……。

 特に資格とか取って来なかった。

 今、持ってる資格は学生時代に取った「オフィスが使える技能がある」という資格と、「飼い猫スペシャリスト」という資格だけだ。

 今の時代、私に売れるようなスキルはほとんどない。


 そんなとき、ふと通りかかった川口動物病院に「キャット(ネコ)シッター募集」という貼り紙を見た。

 なんだそれ?

 ネコ好きの食指が反応してしまう。


『キャット(ネコ)シッター募集』

原則住み込み(24時間対応、実働8〜10時間+待機時間)

月給18万円

週休2日、有給休暇20日/年

部屋16畳一部屋

家賃(住居費)、食費、水道光熱費、無料WiFi提供。


月給は安い。

けれど、住居費も食費も光熱費もかからない。

しかも、無料WiFiまで完備はうれしい。

子どものころ、うちではネコを飼っていた。

お母さんに捨てられて以来、飼えなかったけど、ネコは好きだ。

でも、今のワンルームマンションでは飼えない。


「あのぅ、すみません」

「初診の方ですか?」

「いえ、外の貼り紙を見たんですが……」

「あぁ、うちで紹介してる綾瀬さんの件ですね。貼り紙の下に連絡先が書かれているので、そちらで聞いてもらっていいですか?」

 そう言って、受付のお姉さんは病院の入口に貼ってあったのと同じ紙をくれた。


 病院の紹介ということだし、変な場所ではないだろう。

トゥルルル……

電話をかけてみる。

=はい、綾瀬です=

「私、石川と申します。川口動物病院に貼ってあったネコ・シッターについて、詳しいことを知りたいのですが……」

=あぁ、それなら。今日、これから来てもらうことはできるかしら?

 場所は……=


 スマホのナビを頼りに、聞いた住所まで向かう。

 なんだか、大きな家にたどり着いた。

 表札には「綾瀬」と書いてある。

 呼び鈴を押してみる。

 すると、待ってましたとばかりに、綾瀬家の奥様と思われる方が出てきた。

「さぁ、まずは入って……」

「お邪魔します」


 話を聞くと、仕事は奥様や娘さんがネコの世話をできないときに、代わりに世話をするというものだった。

 私に与えられる私室は鍵付きの16畳。

 この家には、24畳くらいの大きなネコ部屋と、30畳くらいのネコ庭(中庭)があり、そこが職場になるという。

 おそらく、ネコのトイレ掃除やエサやり、水の交換はもちろん、体を洗ったり、ブラッシングしたり、爪を切ったりするのだろう。

 まぁまぁハードかもしれない。

 でも、悪くない。

 何かあった時、奥様が出かけてなければ奥様に指示を仰ぐ。

 奥様がいない場合、獣医の先生に電話して指示を仰ぐ。


 今は、アズキという名前のネコが1匹。

 ネコ種はよくわからないが、キジ三毛という柄だ。

 避妊手術は済んでいるらしい。


 将来は保護ネコの受け入れを考えておられるらしく、

 私の仕事ぶり次第で、ネコが増えていくらしい。


 朝食後、ご主人と娘さんが出かけたら、奥様から仕事を引き継ぐ。

 実働8時間。

 それ以外は、何かあった場合に対応する待機時間。

 途中の昼休憩時は、奥様がネコの面倒をみる。

 朝、昼、夜とご飯が出る。

 食事を作らなくていいのは、楽でいい。

 同居というのは、気苦労がつきまとうと思っていたが、

 ここのお宅は、生活に余裕があるらしく、

 ギスギスした雰囲気もなく良好な関係を築けそうだ。


 あとは、ここのネコが一週間で懐いてくれたら採用してくれるらしい。

 つまり、私の採用を決めるのは、奥様でも獣医の先生でもない。

 この家のネコだ。


 アズキは娘さんがいる時には、娘さんにベッタリ。

 娘さんのひざの上がお気に入りで、そこにどっかり腰を降ろしてくつろぐ。

 御主人がいる時には、ご主人に体をスリスリ。

 奥様には、体をスリスリしたり、ふみふみしたりしている。


 私のひざにも、たまに乗ってくる。

 ただし、誰かが一緒にいるときだけだ。

 しかも、私のひざに乗るときは、決して座らない。

 四本脚で立ったままだ。

 仲良くしているフリをしつつも、今ひとつ懐いていない。


 私だけのときは、ツーンとしている。

 でも、攻撃的な態度は取らない。

 どちらかというと、無関心という感じだろうか。


 でも、それでは困るのだ。


 目を離すと元気いっぱい悪戯する。

 誰かが見ていると大人しくネコを被っている。


 頼むぞ。アズキ。

 お前が懐いてくれないと、私が仕事を失ってしまう。

 まずは、お前との距離を縮めることからだ。

 お読みいただき、ありがとうございます!


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