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転生したら美少女だったオレ  作者: ウルティ
第二章 この世界の自分

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第九十六話 それは愛じゃない

仕事が繁忙期で執筆する時間が前みたいに取れない。。。

更新遅くなってしまい申し訳ないです。。。

でも!

更新は絶対にするので、飽きずに読んで頂ければと思います!

第九十六話 それは愛じゃない

 アイリス・シエーレとは、何者なのか。

 その問いが、夏の海辺事業の成功を境に、学院のあちこちで囁かれるようになった。


「シエーレって、家名じゃないんでしょ?」


「自分で名乗ってるだけだって聞いたわ」


「親族の後ろ盾もないのに、王女殿下と親しいの?」


「ローゼリア様とも普通に話してるじゃない」


「双子の悪魔と契約したって話も、本当なのかしら」


「でも、魔法はまともに使えないって聞いたわよ」


「それなのに、ハルヴェイ商会と海辺の事業を成功させたんでしょ?」


「初日から想定の三倍だったらしいわ」


「十億ビルの信用枠を動かしたって、本当?」


「灰鴉の非公開取引会にもいたらしいわよ」


「五億ビルを使ったって聞いた」


「ベルゼア卿と会ったという話もあるわ」


「元海賊子爵とも繋がりがあるんでしょう?」


「ねえ、あの子、本当に何者なの?」


 廊下を歩くだけで、視線が刺さる。

 以前から目立っていた自覚はある。

 この見た目だ。

 目立たない方が無理がある。

 それに、セシリアと一緒にいれば目立つ。

 ローゼリアと並んで歩いても目立つ。

 双子の悪魔と契約した時点で、普通からはかなり遠い。

 けれど今は、視線の種類が違った。

 好奇心。

 憧れ。

 嫉妬。

 警戒。

 値踏み。

 そして、欲。

 ルシェルの言葉が、嫌でも蘇る。

 君は、価値を持ちすぎた。

 君は、欲しがられる側になった。

 腹立たしいことに、あいつは間違っていなかった。

 けれど、正しいことを言う人間が、正しい手を差し伸べるとは限らない。


「アイリス」


 隣を歩くニカが、耳をぴくりと動かした。


「今日、ずっと見られてる」


「いつもじゃない?」


「違う。今日のは、なんか……食べ物を見る目も混じってる」


「食べ物?」


「うん。食べる前に、味を想像してるみたいな目」


 ニカらしい表現だった。

 けれど、笑えなかった。


「獣人の感覚?」


「たぶん。あと、ラーテルの勘」


「それは頼りになるね」


「でしょ」


 ニカは少しだけ得意げに笑った。

 けれど、すぐに真面目な顔になる。


「アイリス、大丈夫?」


「大丈夫。面倒だけど」


「顔が、大丈夫じゃない時の顔」


「どんな顔?」


「笑ってるけど、目が怒ってる」


「よく見てるね」


「友達だからね」


 その一言で、少しだけ肩の力が抜けた。

 教室に入ると、視線はさらに増えた。

 話しかけてくる者もいる。

 距離を取る者もいる。

 何かを言いたげにして、結局何も言わない者もいる。

 昼休みになる頃には、セシリアとローゼリアが自然に俺の近くへ来た。


「アイリス、ずいぶん噂になってるじゃない」


 セシリアが、少しだけ眉を寄せて言った。


「聞こえてた?」


「聞こえるように話してる人もいるのよ。まったく、品がないわね」


 セシリアはふん、と小さく鼻を鳴らした。


「べ、別に心配してるわけじゃないけど。名が広がるっていうのは、面倒なことなのよ。誰かに覚えられるってことは、誰かの計算に入れられるってことなんだから」


「心配してくれてるんだ」


「してないわ」


「そっか」


「……少ししか」


 小さな声で付け足したセシリアに、俺は少しだけ笑いそうになった。


「笑った?」


「笑ってない」


「今、絶対に笑いかけたわよね」


 横から、ローゼリアが腕を組んで息を吐いた。


「呑気に笑ってる場合じゃないわよ、アイリス」


「ローゼリア」


「家の名がない者が力を持つと、貴族どもは必ず理由を探すわ」


「理由?」


「誰の駒なのか。誰の庇護下なのか。あるいは、誰なら奪えるのか」


 ローゼリアの目が、鋭くなる。


「あなたが自分でシエーレを名乗ってることは、私は嫌いじゃないわ。むしろ、その根性は気に入ってる」


「ありがと」


「でも、貴族どもから見れば隙よ。家の壁がない。親族の盾もない。つまり、手を伸ばせると思う馬鹿が出る」


「出たら?」


「叩き潰せばいいだけでしょ」


 即答だった。


「……ローゼリアらしいね」


「当然よ。奪われる前に潰す。貴族社会では、優雅な笑顔より役に立つこともあるわ」


 セシリアが呆れたようにため息をつく。


「ローゼリア、もう少し言い方ってものがあるでしょ」


「回りくどい言い方をしてる間に、相手が手を伸ばしたらどうするの」


「その時は、王女として抗議するわ」


「私は先に殴るわ」


「殴っちゃ駄目でしょ」


「相手によるわね」


 二人のやり取りに、少しだけ空気が軽くなる。  けれど、言っていることは軽くなかった。

 家の壁がない。

 その言葉が胸に残る。

 シエーレは俺が決めた名前だ。

 誰かからもらったものではない。

 家も、親も、後ろ盾もない。

 だからこそ、自分で名乗った。

 誰かの家に入れてほしかったわけじゃない。

 誰かの所有物になるために、名前を決めたわけでもない。


「私は、私の名前で立つよ」


 自然と、そう言っていた。

 セシリアが一瞬目を丸くして、それから少しだけ頬を赤くした。


「ふ、ふん。そういうところは嫌いじゃないわ」


「素直に褒めればいいのに」


「褒めてないわよ」


「今のは褒めてた」


「褒めてない」


 ニカが小さく笑う。

 ローゼリアは、満足そうに口角を上げた。


「いいじゃない。そのくらい言えるなら、まだ大丈夫ね」


「まだって何」


「隙を見せたら私が叱るってことよ」


「それは怖い」


「怖がりなさい。忠告を聞かない友達には、そのくらいでちょうどいいわ」


 友達。

 その言葉が、また少しだけ俺を支えた。

 放課後。

 俺は一人で白薔薇回廊へ向かっていた。

 呼び出されたわけではない。

 けれど、なんとなく分かっていた。

 こういう時、あいつは現れる。

 白い柱。

 蔓の絡む回廊。

 夕暮れに淡く沈む白薔薇。

 その奥に、ルシェルはいた。


「やあ、アイリス」


「またここ?」


「ここは君によく似合うから」


「私は白薔薇じゃない」


「分かっているよ。君はもっと鮮やかだ」


 噛み合わない。

 最初からそうだった。


「昨日の話、考えてくれたかな」


「考えたよ」


「なら――」


「受けない」


 即答した。

 ルシェルは少しだけ目を細める。


「早いね」


「昨日から変わってない」


「それでも、考えたんだろう?」


「考えたから、受けない」


 白薔薇の香りが、風に乗って流れる。

 ルシェルは俺の方へ一歩近づいた。

 俺は同じ分だけ距離を取る。


「君への視線が変わったね」


「見てたの?」


「見なくても分かるよ。憧れも、嫉妬も、欲も、恐れも。全部、君に集まっている」


「嬉しそうだね」


「嬉しくはないよ」


 悪びれない。

 それが、余計に気持ち悪い。


「美しい光景だ。けれど、危うい。君は表に出る成果だけでも、もう十分すぎるほど目立っている」


「だから?」


「だから、僕の提案は今でも有効だ」


 ルシェルの声は、昨日と同じように柔らかかった。


「僕は、君を閉じ込めたいわけじゃない」


「そうは聞こえなかった」


「僕は君を守りたいんだ。君が傷つく前に、汚される前に、奪われる前に」


「その全部が、私を動けなくする」


「動けなくするんじゃない。余計な痛みから遠ざけるんだ」


「痛みも含めて、私のものだよ」


 ルシェルの眉が、ほんの少しだけ動いた。


「痛みを欲しがる必要はない」


「欲しがってるんじゃない。奪われたくないだけ」


「痛みを?」


「選択を」


 俺はルシェルを見た。


「失敗して痛い目を見るのも、誰かを助けに行って傷つくのも、進んだ先で後悔するのも、全部、私が選んだ結果なら私のものだよ」


「君は、そんなものまで抱えようとする」


「抱えるよ。私の人生だから」


 ルシェルは困ったように笑った。


「アイリス。僕は君を大切にしたい。誰よりも」


 その声は、今までより少し深かった。


「君の怒りも、強さも、危うさも、美しさも、全部僕は見ている。君がどれほど眩しくて、どれほど壊れやすいか、僕は知っている」


「……」


「これを愛と呼ばずに、何と呼ぶのかな」


 その瞬間、白薔薇の香りがひどく濃くなった気がした。

 愛。

 その言葉は、本来ならもっと温かいもののはずだった。

 俺はゆっくりと息を吸う。

 そして、はっきり言った。


「それは愛じゃない」


 ルシェルの表情が止まった。


「……何?」


「それは愛じゃない」


 二度目は、一度目よりも自然に出た。


「愛って、相手を自分の望む形に閉じ込めることじゃない。相手が嫌だと言ってるものを、美しい言葉で包んで差し出すことでもない」


「違う。僕は君を――」


「私が傷つくのを見たくないからって、私の選択まで奪うなら、それは私を見てるんじゃない」


 ルシェルの瞳が、静かに揺れた。


「あなたは、あなたが壊れてほしくない私を守りたいだけ」


「違う」


「違わない」


「僕は君を見ている。誰よりも、君を見ている」


「ほら、それ」


 俺は遮った。


「あなたが見てるのは、危うくて、美しくて、壊れやすい私でしょ」


 ルシェルが息を止める。


「でも私は、それだけじゃない」


 言葉が止まらなかった。


「私は、守られるために綺麗でいるわけじゃない。飾られるために生きてるわけでもない。私は怒るし、間違えるし、傷つくし、失敗もする」


 前世の俺。

 今の俺。

 アイリスとしての俺。

 全部が胸の奥で混ざる。


「それでも、自分で選ぶ」


 ルシェルの顔から、笑みが少しずつ消えていく。


「その私を認めないなら、あなたは私を好きなんじゃない」


「……違う」


 ルシェルの声が、わずかに掠れた。


「違うよ、アイリス。僕は君を、誰よりも――」


「誰よりも、私を自分の手の届く場所に置きたいだけでしょ」


 白薔薇回廊が、静まり返った。

 ルシェルは動かない。

 けれど、空気だけが変わった。


「あなたは、私が自由になるのが怖いんじゃない」


 俺は続けた。


「私が、あなたを選ばずに自由になるのが怖いんだよ」


 ルシェルの指が、ほんの少し震えた。

 初めて見た。

 彼の完璧な姿が、ほんのわずかに崩れる瞬間だった。


「……そんなことを、言うんだね」


 ルシェルの声は低かった。


「君は、本当に残酷だ」


「残酷でもいい。嘘を受け入れるよりは」


「僕の気持ちを、嘘だと言うのかい?」


「気持ちは本物かもしれない」


 そこは否定しなかった。

 ルシェルの感情は、たぶん本物だ。

 歪んでいて、重くて、気持ち悪くて、俺には受け入れられない。

 それでも、偽物だとは思わない。


「でも、それを愛だとは認めない」


 ルシェルは黙った。

 長い沈黙だった。

 風が白薔薇を揺らす。

 花弁が一枚、石床へ落ちた。

 やがて、ルシェルは小さく笑った。

 いつものように美しい笑みだった。

 けれど、どこか薄い。

 表面だけを貼り直したような笑みだった。


「分かったよ、アイリス」


「何が?」


「君は、僕の言葉では分かってくれないんだね」


 背筋が冷えた。


「何をするつもり?」


「君に、分かってもらうだけだよ」


「ルシェル」


「今日はこれ以上話しても、君を困らせるだけだ」


 そう言って、ルシェルは一歩下がった。


「また会おう、アイリス」


「私は会いたくない」


「そう言うと思ったよ」


 彼は優雅に背を向ける。

 その姿は、いつも通り美しかった。

 けれど、なぜか今までよりずっと危うく見えた。


「君が僕を選ばない世界なんて、あまりにも醜い」


 小さく、そう聞こえた気がした。


「今、何て――」


 俺が聞き返す前に、ルシェルは回廊の影へ消えていた。

 白薔薇の香りだけが、やけに濃く残った。

 それは花の匂いではなく、何かが腐る直前の甘さに似ていた。


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お疲れ様です、ご無理をなさらない範囲で更新お願いいたします。 更新を楽しみにしていますが、くれぐれもご自愛くださいませ。
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