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転生したら美少女だったオレ  作者: ウルティ
第一章 なにもない場所

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第九話 脅威との遭遇

「ローゼリア…」

 俺は自分も危機的状況なのに自分を心配してくれたローゼリアを絶対に家に送り届けることを決めた。

 胸の奥で、何かが静かに固まっていく。

 迷いが、すっと引いていく感覚。

 震えていたはずの指先も、いつの間にか落ち着いていた。


「ありがとう」


 素直にそう思えた瞬間だった。


「いいのよ!さっ、いきましょ!っと、はい、これ」


 そういうとローゼリアはナイフを一本差し出してきた。


「え?いいの?」


 さすがに驚いた表情を顔が勝手に作ってしまう。


「えぇ、今はこれしかないけど、まずは近くの街を目指しましょ」


 こうして、俺とローゼリアはさらに川沿いを登って行った。

 川沿いを歩いている途中、俺はふと足元に黒い石が落ちているのが目に入った。

 湿った土の中に半分埋もれ、鈍い光を放っている。


「お、やった!!」


 俺はその石を手に取った。


「どうしたの?」


 ローゼリアは不思議そうに俺の手にある石を見つめる。


「これはたぶん火打石だ!これで火が起こせる!火が使えるのはかなり大きい!」


 火があるかないかで、生き延びられるかどうかが変わる。

 夜の寒さ、獣、暗闇――それら全部に対抗できる唯一の手段。

 それを手に入れたという事実に、思わず胸が高鳴る。

 俺は少しワクワクしていた。

 太陽が少し傾き、赤みを帯びてきた頃、俺たちは山頂あたりに着いていた。

 川も終わり、上には湖が広がっていた。

 水面は静かすぎるほど静かで、波ひとつない。

 風が止まると、自分たちの呼吸音だけが妙に大きく聞こえる。

 幸い水は非常に綺麗で陽の光を反射して水面がキラキラと輝いていた。


「ちょっと木に登って辺りを見てみるよ」


 ローゼリアにそう伝え、俺は木に登り辺りを見渡した。

 枝が軋む音がやけに大きく響く。

 一度視線を巡らせるが、それらしいものは見えない。

 気のせいかと思い、もう一度目を凝らす。

 あれは…

 目を細めて見てみると、そこにはいくつかの建物が見えた。

 木々の隙間に、人工物特有の直線が浮かび上がる。


「あっちの方にいくつか建物がある。でも結構距離がありそうだね」


 俺は見たことをローゼリアに伝える。


「なにか旗のようなものはある?」


 下からローゼリアが確認してくる。

 旗かぁ、なるほど、それがあればどこの国の領地かわかるってことだな。

 あれは…俺は目を凝らす。

 一瞬見失い、位置をずらして再び探す。


「紫の下地に赤い…剣かな?」


 視線をローゼリアの方に移すとローゼリアの顔が少し安堵しているように見えた。


「知ってる場所?」


 表情から察するに既知の旗だったのだろう。


「えぇ、ここはヴェルドリア王国内みたいね。ほかにはなにか見える?」


 俺は木から降りた。


「いや、それ以外は木ばっかりだったよ。でも太陽がもう沈みかけてるね」


 辺りは少し暗くなり始めていた。

 影が伸び、森の奥が黒く沈んでいく。


「そうね、なら早くその村に行ってみましょ」


 正気か?おてんばにもほどがあるぞ。


「いや、今日はここまでだね。ここから先は明日にしよう。暗くなったらこの森は危険だ。まだ少し明るい内に暖を取ろう」


「そうね、わかったわ。まずは身を守ることが大切だものね」


 ローゼリアは意外にもすんなり受け入れてくれたようだ。


「それじゃあ暖を取るために、まだ陽がある内に素材を集めよう」


 俺はローゼリアに着いてくるように促し、火をつけるための素材を集めに動いた。

 腐った木、枯れ草、ナイフを使い木を削る。

 乾いた部分を探し、少しずつ削り出す。

 指先に伝わる感触が、妙に現実味を帯びていた。


「アイリス、すごいわね、どこでそんな知識を学んだの?」


 ローゼリアは同い年くらいの子がサバイバルできることに違和感を覚えているのだろう。

 

「昔見たのを見よう見まねでやってるだけだよ」


 素材も集め終わり、ナイフの背に火打石を打ち着火を試みる。


「うーん、なかなか上手くつかないなー」


 何度石を打ちつけても火花は散るが火にならない。

 初めてやるが、難しいもんだな。

 なかなか失敗する。

 手も黒くなってきた。

 指先に煤が付着し、じわりと汚れていく。

 ライターが恋しい。


「ちょっと貸してみて」


 ローゼリアが俺の見よう見まねでやってみる。

 カチッ

 カチッ

 ボッ


「ふぅーふぅーふぅー」


 ローゼリアは火種に息を吹きかける。


「ついたーー!」


 一発!


「おぉー、すげー!すげーよローゼリア!」


 思わず大きな声で興奮してしまった。


「すげーよ?」


 あ、つい素が出てしまった。


「すごいよ!ローゼリア!これで暖を取れる!」


 何もなかったかのように押し切った。


「いぇーい」


 俺は両手をあげ、ローゼリアの方を向く。


「いぇーい」


 ローゼリアも満面の笑みで両手を上げた。


 パンッ


 俺たちはハイタッチを交わす。

 すると、ローゼリアは俺を抱きしめてきた。

 一瞬、身体が固まる。

 反応が遅れた。

 柔らかい体が俺を抱きしめ、ほのかに優しく甘い香りがした。

 女同士の馴れ合いだが、中身が男な俺には少し刺激的だった。

 そうこうしてる内に寝床も出来上がり、俺はローゼリアを先に休ませた。

 俺は周りを警戒しながら、焚き火にあたっていた。

 ふと、空を見上げると満天の星空が広がっていた。

 空気は冷たく、音がほとんどない。

 焚き火の弾ける音だけが、やけに大きく響く。


「こんな空、生まれて初めて見たな」


 気がついたら言葉に出ていた。

 ただ、それは見たことの無い空だった。

 俺はここまでの出来事を思い返してみる。

 自分の体、得体の知れない生物。

 見たことの無い動植物。

 知らない国。

 そして、魔法。

 ――いや、違う。そんなわけがない。


「俺は異世界にでも来ちまったのかもな…」


 少し寂しさが込み上げてくる。

 結婚はしてなかったし、部下もいなかったけど、友達、親、兄弟。

 元の俺はどうなってしまったんだろうか。

 元に戻れるのだろうか。

 そんな事が頭の中をぐるぐると回っていた。


「うーん」


 ローゼリアが寝返りをうつ。

「とりあえず今は考えても仕方ないか。出来ることをやるしかない。まずはローゼリアを家まで届けよう」

 俺は自分に言い聞かせるのだった。

 

 ――その時。

 ふっと、周囲の音が消えた。

 ガサガサガサ

 少し先の茂みで音がする。


「なんだ?!」


 俺は急いで視線を空から前へ移す。

 周りの空気が静まる。

 呼吸の音だけがやけに大きく響く。

 そして不気味さが混ざっていく。

 少しずつ近づいてくる喉を鳴らす粘ついたような音。

 そこにはバラバラの高さで煌々と赤く光るいくつもの目があった。

 瞬き一つしないまま、こちらを見ている。

 不揃いのリズムで、しかし確実に距離を詰めてくる。


「ローゼリア!!」


 俺はナイフを取り出し、構える。

 少しナイフを握る手が震える。

 喉が乾く。

 それでも――一歩、前に出る。

 そして、息を大きくひとつ吐き整える。

 ローゼリアを背中にして立つ。


「な、なに?!」


 勢いよく起きるローゼリア。


「たぶん敵。ゆっくり起きて、ナイフを構えて。ほかにもいるかも知れないからそっち側の警戒をお願い」


 速くなる鼓動が耳を打つ。


「え、えぇ…わかったわ」


 少し声が震えてる。

 指先も、わずかに揺れている。

 当然だ。

 それなのに。

 ほんと、根性あるよこの子。

 そして、俺と背中を合わせ、ローゼリアも構えた。

 俺の口角が自然と上がる。

 こいよ、やってやる。

 俺は少しワクワクしてる自分を感じていたのだった。


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