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転生したら美少女だったオレ  作者: ウルティ
第一章 なにもない場所

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第十話 命の危険

第十話 命の危険

 月の光が照らす夜。

 聞こえるのは焚き火が燃える音。

 そして、赤い目の得体の知れない生き物の喉を鳴らすと足音。

 月に薄くかかっていた雲が無くなり、その生き物が月明かりに照らされ、異質な姿を表す。

 闇の中では輪郭しか見えなかったそれが、光を浴びた途端、ぞっとするほどはっきりとした。

 地を這うような低い唸り声。

 湿った鼻先。

 ゆっくりと開閉する口元。

 生き物特有の熱を帯びた息が、夜気の冷たさと混ざり合ってこちらまで届いてくるような気がした。


「なんだ、こいつ…」


 その異様さに言葉が勝手に漏れる。

 黒い毛に覆われた狼の様な姿に鋭いツノが生えた頭。

 極め付けは大きな牙が揃った口。

 その口から涎が垂れている。

 ただの獣じゃない。

 どこか歪で、感じたことのないような不気味さがあった。

 俺たちをご飯だと思ってんだろうな。

 ローゼリアも俺越しにそいつらを見ていた。


「魔獣よ!」


 ローゼリアが短く叫ぶ。


「魔獣?!そっちは来てる?」


 魔獣なんているのかよ。

 だが、そんなことは今はいい。

 とりあえず俺は一度背後の状況を確認した。

 視線だけを動かし、焚き火の向こう側、暗がりの奥、草の揺れ、木々の影を確かめる。


「こっちは大丈夫そうよ、アイリス、戦闘経験は?」


「いや、ないよ。そっちは?」


「私も初めてよ」


 やはり少し声に震えがある。

 俺でも手が震えてるんだ。

 ほんとの十五歳の女の子が怖く無いわけない。


「ローゼリア、私がダメだったら逃げるんだよ」


 最初に打ち合わせした通りだ。


「ばかなの?あんたが死んでもダメよ。二人で生き残るわよ」


 俺は思ってた返答じゃなかったことに少し驚いた。

 それは強がりでも見栄でもなく、真っ直ぐにこちらへぶつけられた言葉だった。

 ったく、とんだお転婆娘だよ。

 気がつくと俺の震えは止まっていた。

 武器を握る手の力を少し抜き。

 重心を下げた。

 二人で横に並んでナイフを構える。

 焚き火の熱を背中に感じる。汗なのか冷や汗なのか分からない湿り気が首筋を伝った。


「さぁ、こい!!」


 前の二匹が飛びかかってくる。

 一方は鋭い爪を剥き出しにし、もう一方は大きな牙をギラつかせる。

 地面を蹴る力が強い。

 爪が土を抉り、夜の静けさを破壊するように一気に距離を詰めてきた。


「避けろ!」


 俺は叫んだ。

 そして、ローゼリアが右へ飛ぶのための踏み込みを見てから俺も右へ飛ぶ。

 極力単独にならないようにだ。


 シュッ


 うッ


 左足に痛みが走る。

 飛びかかってきた片方が爪についた血を舐めてる。

 月明かりの下で、その舌だけがぬらりと生々しく光った。


 クソッ

 半歩遅れた足を引っ掻かれた。

 だが、傷は浅い。

 熱いような、冷たいような痛みが走るが、まだ動ける。


「ローゼリア、私が前に出る」


 いけ!いくんだ、俺!

 一歩を踏み出せ!

 俺は緊張した一歩目を前へ出し、距離を詰めに行った。

 怖い。

 けど、止まったら終わる。

 逃げるだけじゃダメだ。

 ここで一匹でも減らさないと、二人とも食われる。

 そのまま手前に出ていた魔獣に突っ混む。

 心臓が跳ねる。

 命の危機を感じる。

 同時に感じたことのない高揚を感じる。

 全身の血が熱くなり、視界の輪郭だけが妙にはっきりする。

 視線は逸らさない。

 音が…消える…

 時間が…遅くなる…

 自分の集中力が極限に近づいていく。

 魔獣の筋肉の動き。

 牙の角度。

 踏み込み。

 全部が見える。

 全部が分かる。

 体より先に意識が動いていた。

 一瞬、魔獣の動きが止まったように見えた。


「……」


 俺は無言で瞬きもせずに、頭にナイフを横から突き刺す。

 刺さった瞬間。


きゃうんッ


 音が戻る。

 肉と骨を突き刺した感触がナイフ越しに伝わってくる。

 そして

 血が吹き出す。

 生温かい液体が手と頬に飛び、強烈な鉄臭さが鼻を刺した。


「アイリス!横!」


 しまっ!!

 すぐに視線を向ける。

 もう一匹が横から俺の腹を目掛けて突進してきていた。

 だめだ、間に合わない!

 咄嗟に腹に力を入れる。

 ほぼ同時のタイミングで腹に鈍痛が走る。


「かはッ!」


 なんつー、重さだよ。

 一瞬、脳が揺れる。

 思わず片膝をついた。

 内臓が揺れているような感覚に襲われる。

 胃の中身が逆流しそうになる。

 息がうまく吸えない。

 視界の端が白く揺れた。


「あぶねー、意識が飛びかけた」


 俺は少しぼやけかけた視界の焦点を合わせる。


「こっちよ!」


 ローゼリアの大きな声が聞こえた。

 

 石を投げ体当たりして来た魔獣の気を引いてくれた。

 石は額をかすめ、魔獣の注意が一瞬だけ逸れる。


「よそ見してんなよ!!」


 俺から視線の外れた魔獣の腹を掻っ捌く。

 血と共に内臓がこぼれ落ちてくる。

 ぬるい飛沫が腕を汚し、獣の臭気が一気に広がった。


「あと二匹よ!」


 ローゼリアは構え直している。

 息は乱れているのに、目だけは逸らしていない。


「はぁ…はぁ…あぁ、見えてるよ…」


 残り二匹の方に視線を向ける。


「ちょっと待て…ヤバいぞ…ローゼリア!走れ!」


 そこには無数の赤く光る目があった。

 やつらの仲間が来たのだ。

 一つ二つじゃない。草むらの奥、木の影、その隙間、その全部に赤い点が浮かんでいる。

 俺は咄嗟にローゼリアの手を引っ張り、走り出す。


「ちょ、なに?!」


 ローゼリアは状況を理解出来ていない。


「はぁ、はぁ、やつら、とんでもない数だ!何匹いるかわからない」


 走りながらローゼリアに状況を伝える。


「まだ追いかけて来てるわ!」


 背後から無数の土を蹴る音が聞こえてくる。

 それと共に喉の奥で肉をほしがっているかのような音もする。

 あの粘ついた唸りが何重にも重なり、追い立てるように背中を叩いてくる。


「仕方ない!一か八か森へ逃げ込むぞ!絶対に離れるなよ!」


 俺はローゼリアの手を引きながら森を走る。


「ヤバい!はぁ、はぁ、追いつかれそう!」


 後ろを走るローゼリアはより魔獣に近い距離にいる。

 足音はすぐそこまで来ている。

 枝が折れる音、草を裂く音、息遣い。全部が近い。

 くそッ!ここまでなのか?!

 いや、絶対に死なねぇ!

 こんなところで終わってたまるかよ!

 そして、俺たちは少し開けた場所に出た。


「う…そ…」


 ローゼリアはその光景を見て愕然としている。

 さすがにローゼリアも不安な表情を隠しきれていない。


「行き止まりだと…」


 すぐ近くでは水が轟音を立てて、落ちている。

 この先に道はない。

 崖の下は闇に沈み、どれだけ深いのかも分からない。

 後ろを振り返るとそこまで来ていた。

 俺たちはもう一度ナイフを構える。

 さすがに俺も手が震える。

 体力的にもすでにかなりきつい。

 呼吸で肩が上下する。

 ふぅーーーー

 俺は一度大きく息を吐く。

 一旦思考をクリアにした。

 魔獣はもはや何匹いるかもわからない。

 草むらのそこら中から、唸り声が聞こえる。

 包囲されてる。

 逃げ道はない。

 戦っても飲まれる。

 なら、やることは一つだ。


「ローゼリア、合図したら目を瞑ってくれ」


 俺は静かにローゼリアに伝えた。


「何言ってんの?!正気?!」


 俺はローゼリアの返答を遮る。


「いいから!頼む!信じて」


 ローゼリアは静かに俺の目を見て頷いた。

 本当に強い子だ。

 魔獣は俺たちを噛み殺すタイミングを見計らっている。

 飛びかかる寸前の張り詰めた空気が伝わってくる。


「来るならこい。犬野郎」


 ヴアオオオオオオオン!!


 奥にいた魔獣が吠える。

 その瞬間、前方に居た魔獣がこちらに走ろうとした。


「今だ!!」


 俺は後ろに振り返り、ローゼリアを抱える。

 ローゼリアは目を瞑る。


「なに?!」


「目と鼻を押さえて!」


 俺は最低限のことだけを指示する。


 そして、渾身の力で地面を蹴った。


 崖に向かって…



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