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転生したら美少女だったオレ  作者: ウルティ
第一章 なにもない場所

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第七話 旅立ち

「じゃあ私はいくわ。それじゃ」


 濡れた赤い髪が、水滴と共にふわりと宙に舞う。

 水滴は空気の中で細かな粒となって弾け、陽の光を受けて一瞬だけ宝石のように輝いた。

 差し込む陽の光がその髪を透かし、赤というよりも、燃えるような橙色にも見える。

 風がわずかに吹き抜ける。

 湿った空気と、川の匂いと、まだ残る冷たい水気。

 その中で、彼女だけがやけに鮮やかに浮かび上がって見えた。

 俺はその様子に目を奪われる。


「……」


 時間が、ほんの一瞬だけ止まったような感覚。

 音が遠のき、視界が狭まる。

 ただ、そこにいる“存在”だけが、やけに強く意識に焼き付く。


「…綺麗だ」


 言葉に出すつもりはなかったのに、思わず口から出てしまった。

 自分でも驚くほど自然に、無意識に。


「は?何に言ってんのよ?」


 赤い髪の女の子は不機嫌な様子を浮かべながらも、少し戸惑っているようにも見えた。

 眉を寄せながらも、ほんの僅かに視線が揺れている。


「あ、いや…そういえばどこにいくの?」


 俺は慌てて咄嗟に話題を変えた。

 これ以上突っ込まれるのはまずい。

 話し方に気をつけながら、できるだけ自然に。


「どこって、家に決まってんでしょ!家に帰るのよ!」


 赤い髪の女の子は当然でしょと言わんばかりに勢いよく答えてくる。

 その言葉には迷いがない。

 少なくとも“帰る場所がある”という一点に関しては、確信しているようだった。


「だ、だよね。ちなみにこの辺詳しい?」


 俺は人里に行きたかったので、情報を集めたかった。

 この世界の地理も、危険も、何もわかっていない。

 だからこそ、今目の前にいる“人間”は貴重な情報源だった。


「あたり…ま…ぇ….」


 赤髪の女の子は思い出したように周りを見回しながら言葉に詰まっていく。

 その動きが、どこかぎこちない。

 一瞬だけ何かを思い出したように目を揺らす。

 だがすぐに視線を逸らしーー


「……からない…」


 ものすごく小声。

 風の音に紛れそうなほど弱い声。


「え?ごめん、なんて?」


 俺は聞き返した。


「わからないって言ってんのよ!!」


 さっきまでの曖昧さを振り払うように、強く言い切る。

 だがその声の奥には、ほんのわずかに焦りのようなものが混じっていた。

 俺はその様子に少しの違和感を感じたが、今は触れないでおこう。

 今は行かせないことが最優先だ。

 理由を探るのは後でもいい。


「じゃ、じゃあ君がわかるところに行くまで同行しようか?女の子一人じゃ危ないし」


 俺は少しでも情報がほしい。

 今ここでこの子を手放したら、その情報源がなくなってしまう。

 この状況でそれは致命的だ。

 森の奥に何がいるかも分からない。

 水源も安定して確保できていない。

 人里の位置すら不明。

 そんな中で、一人になる選択肢はない。


「あんたも女じゃない。しかもあんたみたいな変態はお断りよ」


 それはもっともだ。

 思わず苦笑しそうになる。

 それに、自分が女なのをすっかり忘れてしまっていた。

 ……完全に“中身”で動いてるな。


「じゃあ、君が危ない時は私を囮にでもしたらいいよ。それにこの辺に人里がある保証もないし、食料の調達や水の調達は命に関わることだけど、私にはその知識がある」


 これくらい言えば引くはずだ。

 相手はまだ若い。

 感情で動いている部分が多い。

 だからこそ、少し極端な提案を混ぜる。

 合理よりも“印象”で判断させる。

 こんな年齢の女の子相手に少し大人気ない気もしたが、背に腹は変えられない。

 こっちも生きるために必死なんだ。

 使える手札は使わせて貰う。


「ふんっ。勝手にしなさい。一つだけ言っておくわ。私になにかしようとしたら殺すから」


 条件付きの許可。

 だが、それで十分だ。

 まだここで彼女を行かせる訳にはいかない。

 とりあえずは情報源を失わずに済む。


「大丈夫だよ。一緒にいてる間は守るから」


 その言葉は半分本音で、半分は交渉だ。

 俺にとってこの子は、ある意味生命線だ。

 この子には悪いが利用価値がある。

 守る理由は、ある。


「一つ聞かせてくれないかな?」


「なによ」


「君の名前教えてくれない?咄嗟の時に呼べた方が守りやすい」


 俺はそれっぽい理由を付け加えてもう一度名前を聞いた。

 ここで名前が分かるかどうかは大きい。

 距離が一段変わる。


「ローゼリア…」


 納得してくれたのか、名前を教えてくれた。

 少しだけ警戒が解けたのかもしれない。


「ローゼリアか。綺麗な名前だね。君にピッタリだよ」


 これは本心からの言葉だ。

 さっきの一言とは違い、意識して口にした。

 だが、それでも嘘ではない。


「な、あんたなんなの!変なやつね」


 ローゼリアは少し顔を赤らめながら怒ったような素振りをしていた。

 だがその反応は、さっきよりも少し柔らかい。

 バラ由来の名前か。

 美しい花には棘があるとはよく言ったものだ。

 近づけば刺される。

 だが、それでも手に取ってみたくなる。

 そんな存在。


 そしてーー


 こうして、俺とローゼリアの旅が始まった。

 ただ、それがどこへ向かうのかは、まだ誰も知らない。


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