第六話 はじめての出会い
バシャーン!!
勢いよく水飛沫をあげ俺は着水した。
泳ぎはできる。
いや、出来たはず。
一つずつ動作を確認しながら泳ぐ。
「いける!おい!大丈夫か?!」
返事がない。
声は届いてないようだった。
水の抵抗がいつもよりもキツイ。
自分の大きな胸が過去に経験のない水の抵抗を感じさせる。
こんな所でも体の違和感は拭えなかった。
「クソ!流れが強い」
俺は流れに逆らいながら泳いでいた為なかなか前に進まないが、向こうは流れてきているので俺が流されなければ助けられる。
赤髪の少女と目が合う。
向こうもこちらを認識したようだ。
その割にはなにも言葉を発しない。
その子の目は溺れていることに怯えている目ではなかった。
こちらを睨みつけてるようにも見えるほど、力の籠った目だった。
だが、その後赤髪の少女は頭を伏せるように顔を水につけた。
「おい、クソ!気絶したのか?!」
俺は急いで少女の背中側に回り、呼吸ができるように顔を空へ向ける。
彼女は体に力が入っていない。
「もう大丈夫だ!」
俺は声をかけながら岸まで連れて行くが返答はない。
少女とは言え、人一人を抱えて泳ぐのはなかなか骨が折れる。
ましてや、今の俺は女の子の体だ。
なんとか岸までたどり着く。
「はぁ、はぁ、はぁ、だい、じょうぶか?」
赤髪の少女に目をやるが意識はない。
あおむきに寝かせて気道を確保する。
これも海外ドラマの見よう見まねだ。
心臓は動いてる。
呼吸もある。
「とりあえずは大丈夫そうだな」
俺は一人で安心していた。
「それにしても綺麗な子だな」
たぶん今の俺と同い年くらいだろうか。
燃えるような真っ赤で綺麗な髪に、整った顔。
今の俺と同じくらい大きな胸があるのに、ちゃんと締まってる体。
どう見ても美人だ。
「この体になって初めての人間との出会いがこれとはな」
そこで初めてふと思い出す。
「あれ?そういえば俺の顔ってどんなだ?」
ここまで生きることに必死だったから、全く気にしてなかったが、俺はどんな顔をしてるんだ?
俺は確かめる為に、水の流れが穏やかな場所を探す。
「お、あった」
赤髪の少女が見える範囲で水が滞留しているところを見つけ、俺は急いでそちらへ向かう。
そして、恐る恐る水面を除く。
反射した自分の顔が水面に写る。
「おぉ、これは...」
柔らかめの金髪に水色とピンクっぽい色の瞳のオッドアイ。
そして、さっき美人だと思った赤髪の少女か、それ以上の整った顔。
「俺...可愛すぎるだろ」
自分で少し照れてしまうほどの可愛いさだ。
「う...ゴホッ」
自分の顔に見惚れていると赤髪の少女が目を覚ましたようだ。
急いで駆け寄る。
するとその音に反応して、赤髪の少女はすぐに体を起こし臨戦体制を取る。
彼女の手はまだ少し震え、唇も少し青ざめている。
少しの間が生まれる。
ずぶ濡れの俺と彼女から落ちる水滴がポタポタと地面に落ちる。
俺は両手を上げ、敵意がないことを示しながら近づく。
「こっちにこないで!」
力の籠った声。
お礼を言われるかと思いきや、まさかの展開だった。
彼女は肩で息をしている。
そして、金色の瞳でこちらを睨みつける。
足も少しふらついている。
「あぁ、わかった。でも君も座った方がいい。ふらついてる」
いや、ちょっと待て。
今まで一人だったからなんとも思ってなかったけど、この可愛い顔で【俺】はおかしいな。
本当は男なんですって言っても、頭がおかしいと思われるし、まず信じてもらえない。
ここはそれっぽく行くしかない。
「あんたは誰?そんな格好でここでなにをしているの?っていうか、なんでそんな普通にしてられるの?」
力の籠った声で赤髪の女の子が話しかけてくる。
警戒しながらも状況分析とは意外と冷静だな。
「お...私は...」
待て、そう言えば名前...
俺の顔、ちょっと西洋風の顔だったな。
ゲームで使ってた名前しか出てこねー。
しゃーない、それでいくか。
「...わ...私はアイリス...」
「......」
「そう...アイリス」
そういえばこの見たことがないものばかりのところで俺の常識は通用するのか?
彼女の服装から考えると、俺の格好はかなりやばい。
恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。
それに変に怪しまれても後々めんどくさい気がする。
赤髪の少女はまじまじと俺の事を見ている。
「ちょっと...その...迷ってて」
なんだよこの言い訳...
自分で言いながらバカらしくなる。
「なんでそんな辿々しいのよ!何を隠してるの?!」
赤髪の彼女は少し剣幕になりながら追求してくる。
「いや、なにも隠してはないんだけど、それより君の名前は?なんで溺れてたの?」
少しぎこちない話し方だが、まぁ大丈夫だろ。
「名前は言わない。理由も言わない」
かなり警戒されてるな...
「そ、そう、わかったよ」
俺が立ちあがろうとすると
「は?あんたそんな格好でどこに行くわけ?」
「はぁ...まぁいいわ。助かったことは事実だしこの服着なさい」
赤髪の彼女はおもむろに服を脱いでいく。
「ちょ、ちょっと待って!」
俺は思わず止める。
「なによ」
彼女は不服そうな顔をしている。
「いや、気持ちはありがたいけど、さすがに君をこんなところで裸にさせれないよ」
こんな若い子の裸を見るのは......うん、まずい。
「あんたバカなの?中に服を着てるわよ。ほぼ裸のあんたにそんな事言われる筋合いはないわ」
ごもっとも...
こうして、俺は彼女の服を着る。
「ありがと、助かるよ」
こうして、俺は女になってから初めての他人と出会った。
それがーー思っていたよりも、ずっと厄介で。
どこか、妙に引っ掛かる出会いだった。




