第五話 遭遇
「う、うーん」
翌朝、まだ薄暗い中、目が覚めた。
「さぶっ」
目が覚めても状況は変わらず女の体だった。
「はぁ...少し戻ってることを期待したけど無駄そうだな」
俺は現実に戻り、まずは辺りを見渡した。
昨日俺が作ったままの網だった。
夜に雨雲が流れ、起きたらまた雨が降っていた。
「よかった。まだ新鮮な雨水が飲める」
俺は殻に溜まった水で口をゆすぐ。
「あ、そうだ!雨で体を流そう」
洞窟の中も涼しいが寒いというほどではない。
充分に体を乾かせる。
俺は一度裸になり、洞窟の外に出て雨を浴びた。
「ハハッ、こんな事したの幼稚園生のころ以来だな」
そんなことを思いながら、体の汚れと汗を流す。
だが、よく周りを見ると少し視界が悪い。
「この視界の悪さ、雨の日はやっぱり探索は難しいな」
そのまま森の方を見ると遠くの方では雨雲は無くなっている。
「止んだら、水源を探しにいく準備をするか」
体感だが、たぶん今は朝の六時ころだろう。
天然のシャワーを浴び終わった俺はもう一度ハンモックで横になり、体を乾かした。
「まずは袋を作るか。食料をある程度は保管しておきたいしな。その後は食料をいくつか探して、昼過ぎには出発するか」
ある程度体も乾いたので、俺は雨が止むまで投げる石包丁をイメージした物を作っていた。
「これで遠距離でも攻撃できる」
集中して作っていると気がついた時には雨は上がっていた。
「よし、それじゃあさっそく準備するか」
まず近くの葉っぱを加工してまだ若く細いツルで繋ぎ、簡易的なバッグを作った。
「葉っぱとツルでの加工も慣れてきたな」
今回は一回で成功した。
木の実が五つほど入る大きさのバッグで肩からかける仕様にした。
近くの木から五つの木の実を取りバッグに詰める。
「よし、出発するか」
こうして、俺は水源を探しに出たのだ。
森の中は雨上がりの静けさがあり、湿気もあった。
小動物のような生き物がちらほらと姿を見せていた。
だが、どれも見たことのない生き物ばかり。
「なんなんだ、あの生き物...未確認生物なのか?」
すると、微かに水の流れる音が聞こえたような気がした。
「これは...」
俺はもう一度耳をすました。
「水の流れ...川...川なのか?!」
俺は走りたい気持ちを抑え、辺りを見ながら警戒を解かずに足を進める。
はっきりと水の流れる音が聞こえてきた。
俺は期待をほぼ確信に変え進んでいく。
「やった!!水だ!」
だが、それは川というより濁流に近かった。
「昨日と今朝の雨のせいか」
それに川の中や縁にある岩や石が小さいことから、下流辺りなのだと推測できる。
「もう少し上ってみるか」
上流の方が水の流れが速く、綺麗な水がある可能性が高まる。
こうして俺は川に沿って歩き、上流を目指した。
体感で四時間ほど川沿いに歩き、川に見える岩もかなり大きくなってきた。
そろそろ疲労が出てきた。
足が少し痛い。
当たり前だ。
トレーニングを受けた体ではないし、何より見た感じ今の俺はただのか弱い女の子だ。
ふと空を見ると太陽は真上に登っている。
「腹も減ったし、そろそろ昼時かな」
俺は適当な場所を見つけ腰を下ろした。
雨から時間が経ったからか、水の濁りはほぼ無くなっており、川底が少し見えるほどだ。
流れも川と呼べるくらい穏やかになっていた。
「やっぱり元々はかなり綺麗な川なんだな。でもその割に魚の影が一つもないな」
ここまで自然が多い中で水が汚れていることの方が珍しい。
だが、そんな綺麗な川に魚が一匹もいないという違和感を同時に覚える。
音はあるのに、存在がないような。
一瞬、得体の知れない恐怖感が襲ってくる。
背中がぞわりと粟立つ。
俺は頭を横に振り、思考をリセットした。
川を眺めながら持ってきた木の実を食べる。
「そういえば、これはなんの実なんだろうな。美味いけど」
そうだ。
俺はこの体になってから自分が知ってるものに何一つ出会ってない。
「マジでここはどこなんだろうか」
そんなことを考えながら川をボーッと眺めていた。
バサバサッ
急に川のほとりに居た鳥のような生物が羽ばたいた。
視線を向けると赤い何かが流れてきている。
「なんだあれ」
目を凝らして見てみる。
赤いそれは水をかき乱しながら、上流から流れてきている。
「ちょっと待て、あれ、人じゃないのか?!」
水の流れの速さ、距離を一瞬で見る。
「ギリかッ」
俺の体は勝手に動き、咄嗟に川に飛び込んでいた。
素人が溺れている人間を助けるのは危険だ。
溺れてる人間はパニックになっているからだ。
それをわかっていたのに、気付けば体は宙にあった。
「クソっ!間に合え!」
俺はそのまま着水した。




