第三話 恐怖
俺は岩陰に身を潜め、息を殺していた。
自分の鼓動が大きく速く脈打つ。
目を半分、岩陰から出し少し様子を見てみた。
「あれは...なんだ?」
人のような背丈はあるが、ボンヤリと見える影の形は人のものとは違う。
かといって、狼のような四足歩行でもない。
薄暗くて、輪郭がボンヤリと見える程度でしか確認できない。
だが、わかる。
ここで出れば俺は確実に殺される。
「少なくても三体...いるな」
ほぼ丸腰のこの状態であの大きさのなにかを、三体も相手には出来ない。
自殺行為だ。
かと言って、この距離なら逃げる場所もない。
音が少しずつ近づいてくる。
リズムから二足歩行の可能性が高い。
息継ぎの音が聞こえてくるが、うめき声のような音も混じっているように聞こえる。
少なくてもこれまでの人生で直接聞いたことのない音だった。
うっすらと獣のような匂いもしてる気がする。
「なにがいるってんだよ」
そのなにかが近づいてくるたび、俺の心臓は音を大きくする。
やばい...すぐそこにいる...
俺は武器を握る手に力を込める。
緊張からか、暑くないのに汗が滲む。
呼吸が浅くなる。
今まで感じたことのない恐怖を真後ろに感じる。
「こんなわけわかんねぇ所で死んでられっかよ」
ぴちゃ
っく!!
汗が地面に落ち、小さいが確実に音を立てた。
その音に反応して、その影が確実にこちらを向いた。
そして、近づいてくる音が速くなる。
「クソっ!こうなったら...」
やるしかない。
そう思い片膝を立てた瞬間。
空気の抵抗を普段よりも重く感じる。
「な...んだ...これ...い...息が...」
酸素が肺に入っていかない。
足に力が入らない。
音が鈍くなっていく。
そして完全に聞こえなくなっていることに気づく。
感じたことのないなにかの圧力を感じる。
身体中の毛が逆立つような、圧倒的な【恐怖】を体が無意識に覚える。
押さえつけられている訳ではないのに、体が動くことを拒む。
俺の本能が逃げろと叫んでるようだった。
時間の感覚さえも奪うほどのその圧力は、なにから放たれているのかもわからない。
そしてーー
バタバタバタッ
音が戻る
先ほどまで影がおそらく倒れた音が聞こえた。
一瞬、横目に影が倒れるのが見えた。
俺はそのまま振り返らずに一気に地面を蹴った。
一直線に出口を目指した。
息をするのも忘れるほどに。
足に上手く力が伝わりきらずにもつれそうになる。
体力も精神力も普通に走るのとは比にならない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...」
俺は膝に手を付き、必死に息をした。
膝が笑っている。
「なんだったんだあれは...あんなプレッシャー感じたことねぇぞ」
死を覚悟するほどの圧力。
体が全身で拒否していた。
俺は改めて、自分の置かれている状況が死と隣り合わせなのだと再認識させられた。
ふと、雨が止んでることに気がつき空を見上げる。
「なんだよ、これ...」
上空の空だけ雲にぽっかり穴が空いていたのだった。
「なにが...起きてんだよ...」
理解を超える事が起きすぎて、脳が勝手に考えることをやめていた。




