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転生したら美少女だったオレ  作者: ウルティ
第一章 なにもない場所

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第十三話 知らない天井

第十三話 知らない天井

 重い。

 最初に感じたのは、それだった。

 体の奥に鉛でも流し込まれたような鈍さがある。

 呼吸をするたびに胸の内側がじわりと痛み、腹の奥に鈍い違和感が残る。

 左足はほとんど感覚がなく、存在だけがそこにあるような気持ち悪さがあった。

 瞼の裏が明るい。

 ゆっくりと意識が浮かび上がる。

 鼻に入ってくる匂いが変わっていた。

 湿った土でも、川の水でもない。

 乾いた木の匂いと、薬草の青臭さ。

 それに混じる、油の焦げたような独特の匂い。


「……ん」


 喉が焼けるように乾いていた。

 目を開ける。

 視界に入ったのは、見知らぬ木の天井だった。

 節のある板が並び、その隙間から柔らかな光が差し込んでいる。白い布が風に揺れ、わずかなきしみ音がした。


「ここは……」


 声を出した瞬間、喉が痛む。

 俺は布団の上に寝かされていた。

 体を起こそうとして、腹と足に鋭い痛みが走る。


「ッ……!」


 反射的に視線を落とす。

 左足には分厚い布が巻かれ、腹にも同じような処置がされていた。

 布の隙間からは、薬草を塗り込んだような色が滲んでいる。

 ――生きてる。

 遅れて実感が追いつく。

 崖。

 落下。

 水。

 赤く染まる視界。

 そして――


「ローゼリア……!」


「起きたか」


 低い声が返ってきた。

 壁際にいた男がこちらを見ていた。

 無精髭に、薬草の匂いをまとった服。

 腰にはいくつもの革袋。

 医者か。


「……ローゼリアは」


 男は一拍置いて答える。


「別室だ。治療中だな」


 胸の奥が、じわりと締めつけられる。


「……無事、なんですか」


「命はある」


 淡々とした声。


「だが、あの嬢ちゃんも無茶をした。着水の衝撃で全身を痛めてる上に、お前を背負ってここまで来た」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「……背負って?」


「覚えてねぇのか」


 断片だけは覚えてる。

 揺れ。

 体温。

 声。

 でも――それがどれほどのものだったのか、今やっと分かる。


「ここまで、どれくらい……」


「半日だな」


 頭が真っ白になる。

 半日。

 あの細い体で。

 あの状態で。

 俺を背負って。


「普通なら死んでたのはお前だ」


 男の言葉が、重く落ちる。


「足の傷は思ってたより深かった。そこに落下と出血。運ばれてきた時は顔色も最悪、脈も弱かった。あの嬢ちゃんが止まってたら終わってたな」


 言葉が出ない。

 守るって言ったのは俺だ。

 送り届けるって決めたのも俺だ。

 なのに――


「……守るって言ったのに」


 喉の奥から、勝手に言葉が漏れる。


「背負われてんの、俺かよ」


 視線が落ちる。

 情けない。

 ダサすぎる。

 何やってんだ、俺。


「一番カッコ悪い形で助けられてんじゃねぇか……」


 拳を握ろうとして、力が入らない。

 体も動かない。

 何一つできていない。

 なのに――

 あいつは、俺を背負ってここまで来た。

 あの状態で。

 あの顔で。

 あの声で。

 死ぬなって叫びながら。

 胸の奥が、ぐしゃぐしゃになる。


「水を飲め」


 差し出されたカップを、男が支えてくれる。

 少し口に含む。

 冷たい水が喉を通る。

 頭が少しだけ冷える。


「ここは……どこですか」


「ヴァルンハート領の外れ、リズベルって街だ」


 やはり領内か。

 だが、知らない場所。

 俺にとっては完全に異世界のままの場所だ。


「門番が見つけた。嬢ちゃんが、お前背負ったまま倒れ込んできたらしい。まともに喋れねぇ状態でも、“助けて”だけは何度も言ってたそうだ」


 その言葉が、胸に突き刺さる。

 あいつは、最後まで俺を優先してた。

 自分が倒れる寸前でも。


「……会えますか」


「今は無理だ。熱が出てる。休ませないと持たん」


 それでも、生きてる。

 それだけで、十分だった。

 外から人の声が聞こえる。

 荷馬車の音。

 生活の音。

 ここは、街だ。

 森じゃない。

 生きてる人間がいる場所だ。

 なのに――

 俺はまだ、そこに立ててない。

 天井を見上げる。

 ここまで来て、ようやく分かった。

 どうなっちまうんだ、じゃない。

 もう決まってる。

 俺は――


「……次は、俺が背負う側になる」


 男がちらりとこちらを見る。


「なんだ?」


「いえ……独り言です」


 浅く息を吐く。

 腹が痛む。

 足が痛む。

 体はボロボロだ。

 でも、意識ははっきりしてる。

 あの子に、二度とあんな顔させねぇ。

 あんな声で、誰かの名前呼ばせねぇ。

 守るって言ったなら、今度は本当にやる。

 逃げない。

 倒れない。

 背負わせない。

 俺が、全部やる。

 ――そのために


「まずは……立てるようにならねぇとな」


 弱いままじゃ、何もできない。

 ここからだ。

 全部。

 ここから、やり直す。

 俺は静かに目を閉じた。

 その時。

 扉の外で、慌ただしい足音が響いた。


「先生!あの子の熱が――!」


 男が即座に振り向く。

 空気が変わる。

 嫌な予感が、胸を掴んだ。


「ローゼリア……?」


 答えは返ってこない。

 ただ、焦った声と足音だけが、現実を叩きつけてくる。



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