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転生したら美少女だったオレ  作者: ウルティ
第三章 自由と支配

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第百ニ話 新しい春

2日間いてしまいましたが、今日から第三章開幕です!

アイリス達は進級し、2年生となります。

新た学年となり、アイリス達はどのように成長していくのか。

書いている自分も少し楽しみです。

みなさんも楽しみにして頂ければ幸いです!

それでは第三章スタートです!

第三章 自由と支配


第百二話 新しい春

 春が来た。

 学院の中庭に並ぶ木々には、まだ花と呼ぶには小さすぎる芽がついていた。

 冬の冷たさは完全には消えていない。

 それでも、風の匂いは変わっている。

 新入生らしき生徒たちが、校舎の前で不安そうに立ち止まっていた。

 去年の俺も、あんな顔をしていたのだろうか。

 そんなことを思いながら、俺は二年生になった自分の教室へ向かっていた。

 右肩の奥には、まだあの熱の記憶が残っている。

 もう燃えてはいない。

 けれど、消えたわけでもない。

 あの日、大訓練場で聞こえた声。

 ――壊せ。

 ラグナ。

 たぶん、あれはラグナの声だった。

 破壊。

 守るためでも、正義のためでもなく、目の前のものを壊すための力。

 去年の終わりに、俺はそれを知った。

 反対の肩は、今日も静かなままだった。

 そこにも刻印はある。

 ラグナと対になる、もう一体の契約の証。

 けれど、声もない。

 熱もない。

 痛みもない。

 名前以外、俺はまだ何も知らない。


「アイリス!」


 廊下の向こうから、ニカが手を振っていた。

 いつもの調子に戻ったように見える。

 だが、走ってこようとした瞬間、少しだけ脇腹を押さえた。


「ニカ、走らない」


「走ってないよ。ちょっと早歩きしただけ」


「それを走るって言うんじゃない?」


「細かいなあ」


 ニカは笑った。

 その笑顔を見て、俺の胸の奥が少しだけ緩む。

 あの日、ニカは俺を怖かったと言った。

 でも、それでも友達だと言ってくれた。

 俺はその言葉を、たぶん一生忘れない。


「もう平気?」


「平気。バルバラにも怒られなくなったし」


「それは本当に平気なの?」


「そこ疑う?」


「ニカの平気は信用できないから」


「ひどくない?」


 ニカが頬を膨らませたところで、後ろからセシリアの声が飛んできた。


「新学年早々、廊下で騒がないでくれる?」


 振り返ると、セシリアとローゼリアが並んで歩いてきていた。

 セシリアは相変わらず背筋が伸びていて、歩くだけで王女らしい品がある。

 けれど、俺を見る目には少しだけ心配が混じっていた。


「アイリス、今年は妙な噂を増やさないでよね」


「努力します」


「努力じゃなくて、確約しなさい」


「それはちょっと難しいかも」


「なぜ即答しないのよ」


 ローゼリアが横で小さく笑った。


「無理ね。アイリスが何もしなくても、勝手に騒ぎが寄ってくるもの」


「ローゼリアまで」


「事実でしょ」


 否定できなかった。

 実際、廊下を歩くだけで視線を感じる。

 バルドレックを潰した少女。

 ニカを庇った英雄。

 王国騎士を殺しかけた危険人物。

 双子悪魔の契約者。

 顕現もできないのに、何かが出れば止められない存在。

 噂は人によって形を変える。

 俺は英雄でもない。

 ただの被害者でもない。

 それに、完全な加害者ではないと言い切ることもできない。

 その全部を抱えたまま、二年生の教室に入った。

 教室の空気は去年より少しだけ落ち着いていた。

 一年生の時のような浮ついた騒ぎは少ない。

 けれど、視線の鋭さは増えている。

 皆、一年でそれぞれ何かを知ったのだろう。

 席に着いて間もなく、イザベラが入ってきた。

 教室が静まる。


「二年次が始まる」


 イザベラはいつも通り、無駄な挨拶を省いた。


「去年の年度末模擬戦については、すでに聞いている者もいるだろう。外部騎士を招いての模擬戦は、当面見直しとなる」


 教室に小さなどよめきが走った。


「代わりに、学院内で実力評価を行う制度が導入される」


 イザベラは黒板に文字を書いた。

 学院序列戦。


「戦闘力だけではない。判断力、悪魔運用、魔力圧の制御、連携、状況把握。総合的に評価する。年度末には大規模な序列戦を行う予定だ」


 序列。

 その言葉に、生徒たちの空気が変わる。

 分かりやすい順位。

 分かりやすい評価。

 分かりやすい上下。

 それはきっと、多くの生徒にとって燃える材料になる。

 けれど同時に、誰かを傷つける線にもなる。

 ちらりとレオスを見る。

 レオスは窓際の席で、静かに黒板を見ていた。

 手首と指の包帯はもう外れている。

 けれど、その顔から何を考えているのかは読み取れない。


「契約者と非契約者の扱いについては、まだ調整中だ」


 その言葉に、数人が反応した。

 分けることは配慮なのか。

 それとも、最初から同じ場所に立たせないという線引きなのか。

 その答えは、まだ誰にも出せないように見えた。


「それと、二年次からは契約悪魔の顕現訓練を本格的に行う」


 今度は、教室のざわめきが大きくなった。

 顕現。

 悪魔を形として現すこと。

 セシリアが小さく息を呑んだ。

 ローゼリアは目を細めた。

 ニカは少しだけ拳を握った。

 みんな、前へ進もうとしている。

 俺だけが、右肩の熱と、反対の肩の沈黙を抱えていた。


「勘違いするな」


 イザベラの声が教室を切った。


「顕現とは、悪魔を外に出せばいいというものではない。己の本質と、悪魔の本質を理解し、形を与えることだ」


 イザベラの視線が、一瞬だけ俺に向いた気がした。


「焦って出せば、出るのは力ではなく事故だ」


 胸の奥が重くなる。

 事故。

 あの日の俺は、まさにそうだったのかもしれない。

 その後、上位戦力についての簡単な説明もあった。

 王冠十五座。

 各国王族直属の上位戦力群。

 第三層に届く者と届かない者が混在している。

 その名前が出た時、クラスの何人かが息を呑んだ。

 六神星について質問した生徒もいたが、イザベラは短く切った。


「今のお前たちが気にする領域ではない。ただ、そういう者たちが世界には存在している。それだけ覚えておけ」


 それ以上は語られなかった。

 だからこそ、遠かった。

 王冠十五座。

 六神星。

 第三層。

 まだ俺たちの手が届く場所にはない言葉だった。

 その時、教室の扉が叩かれた。


「入れ」


 イザベラの声に応じて、扉が開く。

 入ってきたのは、一人の少女だった。

 濃い金髪のロングヘアが、歩くたびに外へ跳ねるように揺れる。

 薄い緑の瞳は大きく、つり気味で、力強い。

 太めの眉が表情に強さを与えていて、ただ可愛いというより、立っているだけで周囲の顔を上げさせるような雰囲気があった。

 腕から手にかけてはバンテージが巻かれている。

 堂々とした立ち姿。

 白い歯を見せた、まぶしいくらいの笑顔。


「はっはっは! 初対面で注目されるのは悪くないわね!」


 教室が固まった。

 少女はその沈黙すら楽しむように胸を張った。


「私はリリィ・レグナード! 他国の学院から編入してきたわ!」


 そして、さらに笑った。


「いずれ世界を統べる王になる女よ! 覚えておいて!」


 沈黙が落ちた。

 俺は思った。

 また、とんでもないことを真顔で言う美少女が出てきた。

 リリィは教室の空気など気にせず、白い歯を見せて笑い飛ばした。


「はっはっは! いい沈黙ね! でも安心しなさい。今すぐ王になれと言っているわけじゃないわ!」


「言っている内容は安心できないわよ……」


 セシリアが小さく呟いた。

 ローゼリアは興味深そうにリリィを見ている。

 イザベラは面倒そうに眉間を押さえた。


「レグナードは二年次よりこのクラスに加わる。契約悪魔はソードオブクラウン。剣の悪魔だ」


 剣の悪魔。

 その言葉に、クラスが再びざわついた。

 リリィはにっと笑った。


「名前負けしないように鍛えているわ!」


 軽い。

 けれど、軽薄ではない。

 この子の笑顔には、妙な強さがあった。

 授業後、リリィは迷うことなく俺の方へ歩いてきた。


「あなたがアイリス・シエーレね」


「そうだけど」


「噂は聞いているわ。王国騎士を殺しかけた双子悪魔の契約者」


 少し、周囲の空気が固まる。

 でもリリィは、すぐに豪快に笑った。


「はっはっは! 実は手続きでこちらに来ていた時に見たが、あれは凄まじい力だな!」


 俺は少しだけ目を瞬かせた。


「でも、あれはまだ…」


「大丈夫よ!それを学ぶための学院なのだから」


 リリィは俺の顔を真っ直ぐ見た。


「いい顔をしているわ。怯えているだけでもない。誇っているわけでもない。自分が何をしたか、背負おうとしている顔ね」


 胸の奥が少し痛む。

 この子は笑っているのに、見ているところは妙に鋭い。


「世界を統べる王になるって、本気?」


「本気よ」


 即答だった。


「国が分かれているから戦争が起きる。王冠がいくつもあるから民が奪われる。なら、私が全部背負う」


「それは、今の人の在り方奪うことにならない?」


 リリィは笑った。

 けれど、その笑顔はさっきより少しだけ真剣だった。


「違うわ。争いを奪うのよ」


「同じに聞こえるけど」


「なら、あなたとは長い付き合いになりそうね!」


 また笑う。

 まぶしいほどに。

 リリィ・レグナード。

 世界を統べる王になる女。

 剣の悪魔、ソードオブクラウンの契約者。

 その笑顔は、重い空気すら笑い飛ばす。

 でも、俺には分かった。

 あれは何も考えていない笑顔じゃない。

 泣き言を言わないための笑顔。

 誰かの拠り所であるための笑顔。

 前を向かせるために、自分が前を向き続ける笑顔だ。

 その日の放課後、簡単な実力測定が行われた。

 リリィは木剣を握った。

 その瞬間、空気が変わった。

 さっきまで笑っていた少女が、同じ笑顔のまま、剣士になった。

 構えは真っ直ぐ。

 迷いがない。

 一歩踏み込み、木剣を振る。

 測定用の的が、乾いた音を立てて真っ二つに割れた。

 力任せではない。

 速さだけでもない。

 剣筋が、綺麗だった。

 真っ直ぐで、重くて、分かりやすく強い。

 リリィは木剣を肩に担ぎ、俺を見る。


「アイリス!」


「何?」


「いつか本気でやりましょう!」


「私、まだ顕現もできないよ」


「なら、できるようになるまで待つわ!」


 リリィは白い歯を見せて笑った。


「王は、強い相手と戦える日を急がないものよ!」


 春が来た。

 二年生になった。

 けれど、俺の中の怪物は消えていない。

 右肩には破壊の熱が燻り、反対の肩はまだ沈黙している。

 周りは顕現へ進み、学院は序列を作ろうとしている。

 王冠十五座や六神星という、遠い言葉も見え始めた。

 その前に、王になると笑う少女が立った。

 新しい春は、思っていたよりずっと騒がしくなりそうだった。


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