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記憶  作者: ミカクニン
第二章 −泡沫の思い出−
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第32話 −灰色の空−

「ん、ここは...?」


目を開くとそこには先程の美しい海ではなく、木造の部屋の天井があった。


「あれ、海は?」


のそりと起き上がり、辺りを見回すと自分がベッドの上にいることがわかった。


「今のは...夢......」


本当に夢だとしたら、あまりにもリアルすぎる。あの綺麗な海の景色は?波の音は?誰かの会話をする声は?考えれば考えるほどに分からなくなってきてしまう。


「最後、お母さんって言ってたよな...」


その言葉を放ったのは紛れもない自分だ。それなのに、まるで自分ではないかのような、とても妙な感覚なのだ。


「うぅ、なんか頭痛くなってきた...」


部屋は暗く、窓からは月明かりが差し込んでいた。現在の正確な時刻は分からないが、この頭痛の原因が寝すぎた事によるものだろうということがわかる。


「このまま起きててもすることないしなぁ...よし、もう一回寝よう」


再び枕に頭を預け、目を閉じる。そこから数秒、数分と時間が経っていくが、一向に眠れる気がしない。


「眠れない......確か、こういうときは羊を数えると良いんだっけ」


誰から聞いたかも判らぬ不確かな情報を藁にも縋る思いで試してみる。


羊が一匹。羊が二匹。羊が三匹。羊が四匹。羊が五匹......





「おーい、リオー」


「んん ...」


「おーきーてー」


体の揺さぶられる感覚と同時に聞き馴染んだ声が聞こえてくる。


「リュコ...?」


「あ、起きた。おはよー!!」


目の前には自分の身体の上に乗り、嬉しそうな顔をしながら尻尾を左右に激しく振っているリュコがいた。


「前にも見たなぁ...こんな感じの景色......」


「ん?今なんか言った?」


「いや、なんでも」


「そんなことよりも!!外見て!外!!」


朝からなぜか興奮気味なリュコに気圧されながらも窓の外を見てみると、まるで城下町のようなたくさんの建物が並んでおり、その向こうには海らしきものが見える。


「どこ!?」


「まぁ、そうなるのも仕方ないか」


「え?」


リュコから聞いた話によると、どうやら僕はこの街に来るまでの間ずっと眠っていたらしい。


「何しても起きないから心配したんだよ?」


自分がスヤスヤと気持ちよく寝ている間、二人はこの街に来てから宿まで自分を運んでくれたのだと思うと、申し訳ない気持ちになった。


「そ、そっか。ごめんね」


それを聞いたリュコは一瞬驚いたような顔をしたがすぐに表情が変わり、分かりやすく怒ったような表情になる。


「誰も謝れなんて言ってないでしょ!!」


「は、はい!」


「まぁ今回は良いや。とりあえず、レイのとこに行こっか」


"今回は"ということは次はないのか...


先に部屋を出たリュコの後をついて行くと、自分が泊まっていた部屋の二つ隣の部屋の前で止まる。


「おっはよー!!レイー!!」


リュコはドアをノックもせず、不躾に部屋へ入ると、そこには誰もおらず誰かがいた形跡すらもなかった。


「ん、誰もいなよ?」


「あれ〜?部屋間違えたかな?匂いもないし...」


「そこの部屋の人なら、少し前に出ていったぞ。」


部屋の出入口でどうしようもできずにいると、そこを通りすがった宿泊客であろう人物が、レイの存在を明らかにしてくれた。


「青い髪の背が高い奴だろ」


「そうそう!ありがとお兄さん!!」


リュコはそう一言お礼を言うと、リオの手を引き足早にその場を去る。


「うわ〜、すごい...」


宿を出ると、目の前には城下町とはまた違った街並みが広がっていた。


「これは探すの大変だな〜...じゃあとりあえず、海行こっか」


「それリュコが行きたいだけじゃ──」


「そんなことないよ!さぁほら、行こ!」


半ば無理やり海に行くことを決められ、本当にレイを探す気があるのだろうかとリオは思うが、ここで待っていても意味はないだろうと考え、リュコの後をついて行く。


「それにしても、この街は不思議な匂いがするよね〜」


「え?不思議な匂い?」


「うん。どうやって説明したらいいかわかんないけど、とりあえず不思議な匂い!」


ものすごく曖昧な答えが帰ってきたが、なんとなくリュコの言いたいことがわかった気がする。


「それってもしかして、磯の香りじゃないかな」


「イソ?なにそれ」


リュコはその言葉を初めて聞いたらしく、頭の上にはてなを浮かべ小首をかしげる。


「んー...簡単に言うと海の匂い、かな?」


それを聞いたリュコの顔が興味津々といった風になる。


「海ってこんな匂いするの!?そもそも海って匂いするの!?」


"不思議な匂い"の正体が判り、リュコは興奮して早口になる。歳は自分よりも上のはずなのに、まるで子供のように見え、少しだけ可愛く思えてしまう。


「うぉぉぉっ!!!海!!早く見たい!!」


リュコはそう叫ぶと海のある方へものすごい速さで人混みを駆け抜けていく。リオはその急なの行動に驚き、止めようとするが、あっという間に姿が見えなくなっていた。


「ちょっ、早すぎない!?」


このまま3人ともバラバラになってしまっては後々大変だろうと思ったリオはリュコを追いかけ、疎らな人混みを走って行く。城下町とはまた違った、複雑で緩やかな坂道を迷いそうになりながらも、しばらく下っていると、人の数がぽつぽつと少なくなっていき、人や建物を吹き抜ける風が段々と強くなっていく。


「ここが...海...」


周りから建物や人がいなくなり、開けた場所に出る。先程よりも風が強く吹き、ざぁざぁと波の音が聞こえる。


「夢で見たのとは全然違うなぁ」


夢の中の海はもっと青くて、綺麗で、穏やかだった。だが今の海はくすんだ灰青色のようで、白波が立ち荒れている。それに今日は生憎と曇り空である。


「ん...?なんだあれ」


ふと遠くの景色を見ると、岩場のある一箇所に海鳥が群がっていた。リオは不思議に思い、海鳥たちが群がっている場所へと歩いていく。


「こ、これは...!?」

リオが見たものとは一体──!!?

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