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記憶  作者: ミカクニン
第二章 −泡沫の思い出−
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第30話 −怪しい影−

こつ、こつ、とゆったりとしたリズムを奏でる靴音が、広い空間に響き渡る。辺りには兵士たちが疎らにたおれている。


「なぜ...貴様のような者が、ここにいる...!どうやって侵入した!」


豪華な装飾が施された広間に相応しく君臨していた巨躯の持ち主は、ある一点を睨みつけ、息も絶え絶えにそう言い放つ。


「......。」


その言葉に無言の応えを返したのは、顔の下半分がガスマスクによって隠された謎の男だった。


「あの時の惨劇を繰り返すつもりか...」


男は、ゆっくりと進めていた足を止める。


「何度繰り返そうと...結果は同じだ...!」


「...過去の栄光に縋るか。かつての"海の王"も、落ちたものだ」


男は心底呆れた様子でため息を吐き、相手を卑しめるように言葉をこぼす。


「黙れ...貴様に、何が分かる...!!」


海の王は声を荒らげ、不気味な男に向かって巨大な武器を振り下ろす。


「弱っていてもこの攻撃の速さ...やはり神は侮れないな」


男はそう言いながらも攻撃を避け、相手との距離をとる。


「だが、お前の身体は確実に死へと近づいている」


海の王は突如血を吐き、倒れるように跪く。体中からは汗が大量に吹き出し、先程よりも苦しそうに呼吸を繰り返す。


「足掻いても無駄だ。俺の能力からは逃れられない」


男は再びゆっくりと歩き出す。その背後には、怪しく畝る謎の影が伸びている。


「我を、殺しても......海は滅びぬ...!」


「そうか。なら消えろ」


男の背後に伸びる影は、目にも止まらぬ速さで海の王の首を突き刺す。


「ぐあ...!?が、が...ぁ......」


刺された箇所から肌色は変色していき、呻き声を上げながら床へと倒れ、そのまま動かなくなってしまった。


「...そこで何をしている」


男は突然、何処かへそう問う。


「あら、気づいてたの?」


その問いかけに、答えではなく同じ問いを返したのは、この場には居なかった女の声だった。


「終わったのならここから出ろと言ったはずだぞ」


男は、後方にあるこの広い空間の出入り口へと向かい歩き出す。そこには声の主であろう一人の女が腕を組み、壁にもたれかかっていた。


「良いじゃない、ちょっとくらい。貴方のことが気になったのよ」


「必要ない。余計なことをするな」


女を見向きもすることなく、そのまま通り過ぎていく。


「ほんと、釣れないんだから」



***



「おーい、リオー。おーきてー」


「んん...」


聞き覚えのある声。思考がはっきりとしない中、もう少しこのままでいたいと無意識に思ってしまう。


「おーきーてーよー。ねぇー」


途切れることなく呼びかけてくる声によって、意識や体中の感覚が徐々に鮮明になっていく。


「ん...?」


「あ、起きた?」


薄っすらと目を開けるとそこには、獣の耳と尾を生やした見覚えのある人影があった。


「おはよう!もう朝だよ!」


こちらが起きたことを確認すると、尻尾を左右に振り、嬉しそうにそう言う。


「リュコ...おもい......」


「え?あぁ、ごめん」


先程から妙に身体が重いと思ったら、リュコが上に乗っていたからであった。眠たげにそのことを伝えると、素直に謝り降りてくれた。


「そんなことよりも朝ご飯!食べに行こ!」


「まってぇ...」


ほら早く!と急かされてしまい、まだまだ寝ていたいという欲求を我慢し、目を擦りながらリュコの後を着いていく。


「わっ、すごく広い...」


「ここは食堂だよ。訓練兵たちはみんなここで朝、昼、晩のご飯を食べてるんだよ」


朝だというのに沢山の人で埋め尽くされ、街の一角のような賑わいを見せている。


「空いてる席はっけーん」


リュコは、誰かに取られる前にとすぐに席に座る。自分も手に持っていた木のプレートを長いテーブルの上に置き、席に着く。


「お、あそこにいるのは...おーい!レイー!」


プレートの上に乗せられたパンを頬張っていると、リュコが何処かに手を振り、呼び掛けている。視線の先を追って見てみると、青い髪の人物が歩いているのが見えた。


「こっちこっちー」


声には気づいたようで、あたりをキョロキョロと探している様子だった。そこにリュコがもう一声かけると、ようやく気が付いたようで、こちらに向かってくる。


「おはよう、レイ」


「んー!」


「おはよう、二人共」


口の中にパンを詰め込みすぎたせいで直ぐには飲み込めず、朝の挨拶を言葉にはできなかったがどうやら伝わったらしい。


「教官が呼んでたよ。朝食を食べたら3人ですぐ来るように、って」


「えー?私今回は何もしてないはずだけどな」


今回はってことは過去に何度か呼び出されてるってことなのか...


「行かなかったら行かなかったで怒られるし...しょうがない、行ってあげますか!」


リュコはそう言うと食べる速度を上げ、先に食べ進めていた自分よりも早く食べ終えてしまった。


「焦らなくても大丈夫だよ、リオ。自分のペースで食べるんだよ」


リュコを見て焦りの表情が出ていたのか、レイは優しく言葉をかけてくれた。そのおかげで少し安心したが、それでも急がねばという気持ちが勝ってしまい、さっさと食事を終わらせ、アキラおじさんのところへと向かう。


「たーのもーう!」


リュコは勢いよくドアを開ける。そこには腕を組み、眉間にシワを寄せ、不機嫌そうな顔をした大男が座っていた。


「もう少し静かに入ってこれんのか貴様は...」


「いーじゃんいーじゃんそんなこと。それで、どうして私達を呼んだの?」


おじさんは、リュコの言葉を聞いて諦めたようにため息をつく。


「ここから遠い、南の方角にある海についてだ」

訓練場の食堂のメニューは

朝:毎日同じ(パンとスープ)

昼:日替わり

夜:日替わり

となっているらしい

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