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勝機

 視線を逸らさぬよう注意しながら、少しだけ摺り足で移動する。

 視界の隅では四匹のゴブリンと対峙している鵜坂の姿。


 今のところ問題なく戦線を維持できている。

 しかし彼女の体力も無限ではない。

 このままオークと見つめ合っていては、現状を変えることはできないだろう。


 戦いの中で活路を見出すしかない。

 そう考えた海斗は、じりじりオークとの距離を詰めていく。



 何度か攻防を繰り返した両者は、距離を取り睨み合う。

 海斗は戦いの中で攻略の糸口を掴もうとしていた。

 しかし膠着状態を打開する手段は見当たらない。


 今の海斗にとって目の前のオークは相性が悪すぎた。

 身に着けた防具に巨大な金属製の戦斧。

 素手で相手にするには中々に骨が折れる相手だ。


 しかも時間と共に傷が回復すると言うオプションまでついてくる。

 だがもしそれだけなら、なんとかならないこともない。


 真の問題は他にある。

 それを海斗は繰り返した攻防の中で感じていた。


「……厄介な」

 

 思わず口を突いて出る不満。

 海斗の視線はオークの腹部に向けられている。


 最大の問題はヤツが腹部に蓄えた脂肪。

 それは衝撃を吸収し、攻撃の威力を半減させていた。


「ぶっぶっぶ~!!」


 オークは自らの腹を叩きながら、挑発するように声をあげる。

 笑みを浮かべたその姿は、拳法殺しと呼ばれる、ある男の姿を彷彿とさせた。


 もし海斗が一子相伝の暗殺拳を身に着けていれば、なんとかなったのかもしれない。

 しかし当然ながら、そんなものを覚えているはずもなかった。


 武器さえあれば――

 そう考え周囲に視線を飛ばすが、整地されたこの場所には小石一つ落ちていない。


 打つ手なしの状態。

 撤退の選択肢が海斗の頭を過ぎる。

 だがそう簡単には逃がしてくれそうもない。


 目の前のオークは完全に海斗をロックオンしている。

 もし背を見せたなら無事では済まないだろう。


 どうやら悩んでいる暇はなさそうだ。

 オークは担ぐように戦斧を振りかぶる。


「……本当に厄介だな」


 戦斧の刃を立てず寝かせることで、攻撃の範囲を広げる。

 ヤツの構え。それは恐らく懐に潜り込まれることを警戒してのことだろう。


 先程の攻防を反映し工夫する――

 知恵のあるモンスターを相手取ることは、非常に難儀だった。


 下手に反撃を狙い、攻撃を喰らうわけにはいかない。

 ここは避けに徹するべきだろう。


「ぶっひーーーーーー!!」


 雄叫びと共に振るわれる戦斧に備え――


「センパイ!! あぶない!!」

「なっ!?」


 上手く動かない身体。

 コマ送りに流れる風景の中、自らの失敗を悟る。


 海斗の身体に飛び付いてきたゴブリン。

 なぜ? 鵜坂が引き付けていたはずでは?

 そんな疑問が浮かんで来るが、今はそれどころではない。


 今から回避する――不可能だ。

 既に目の前に迫った攻撃を避ける手立てはない。

 ならば――


 横薙ぎに振るわれた戦斧の一撃。

 身構えた身体に衝撃が走り、海斗は弾き飛ばされる。


 恐るべき膂力。

 成人男性をまるで野球ボールのように打ち出したオークは、戦斧を振りぬいた姿勢のまま制止している。


「センパイ!!」


 少しでも衝撃を殺すため、海斗は転がるに任せて壁際まで運ばれていく。

 彼女はこちらを気にして、なんとか救援にかけつけようとしてくれている。

 しかしゴブリンの包囲網を潜り抜けるのは難しいだろう。


 分断したつもりが、逆手に取られてしまった。

 恐らくヤツは挑発していたのではない。

 ゴブリンに合図を送っていたのだ。


 まさかモンスターが連携してくるとは。

 想定外の事態に反応が遅れてしまった。


「……ッ」


 だが海斗もただ殴り飛ばされた訳ではない。

 服はぼろぼろになっているが、咄嗟にとった行動で大きなダメージは回避していた。


 海斗は膝を突きながら、手にしていた緑色のゴミを投げ捨てる。

 それは先程までゴブリンだったもの。

 咄嗟にしがみついてきた邪魔者を盾にしたことで、戦斧の直撃を避けていたのだ。


「……ぶぶ」


 これはヤツも想定外だったのだろう。

 オークはこちらを警戒しているようで、即座に動き出す気配はない。


 海斗はオークに視線を向けながら、自身の状況を確認する。

 多少の痛みはあるが、行動に支障がでるほどではない。


 目の前の戦いに集中するあまり、周囲の状況を把握できていないとは。

 以前であれば有り得ないミス。

 海斗は暫く片手間の戦いしてしてこなかったツケを支払うことになってしまった。


 自らの不甲斐なさを猛省しながら、立ち上がろうとすると――

 破れたズボンから、ビー玉大の球体が零れ落ち地面を転がった。


 海斗はソレを拾い上げながら立ち上がる。

 手の平には『漆黒の大剣のマテリアル』。


 もしこれが元の姿――大剣だったなら。

 思わず浮かんだ考えを打ち消すように、海斗はマテリアルを強く握り締める。


「……えっ?」


 閉じた手の平から溢れ出す眩いばかりの光。

 気が付くと海斗の手には懐かしい――漆黒の大剣が握られていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「海斗の身体に飛び付いてきたゴブリン。  なぜ? 鵜坂が引き付けていたはずでは?」 何故って、どうして完全に引き付けていられると単純に考えられるのか不思議、そんなことあり得ないでしょう。
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