新たなるモンスター!
革製の鎧を身に付け、四匹のゴブリンを取り巻きとして引き連れている。
一目みただけで理解できた――ヤツがこの部屋のボスであると。
海斗は目配せしながら、ゆっくりと室内へ踏み込む。
二人で闘技場内へ侵入すると、目の前のオークに動きがあった。
ヤツは手にしたバトルアックスを前方に向かって突き出し――唸り声を上げる。
すると取り巻きのゴブリン達が武器を構え、こちらに向かって駆け出した。
オークに動く気配はない。
どうやら高みの見物をきめこむつもりのようだ。
本来であれば迎え撃つ体勢を取り、取り巻きから処理するのが定石だろう。
しかし海斗は動かない。
ゴブリンに向かうことなく、その場に立ち止まり様子をみている。
なぜ行動しないのか。
それは事前に情報を得ていたためだ。
鵜坂は既に何度か、このオークに挑んでいる。
彼女の実力ではあの巨漢を倒すことは難しいかもしれない。
だがゴブリンを倒す程度の実力は備えている。
実際に彼女は、この場所で何匹もゴブリンを討伐しているらしい。
しかし緑の小兵は取り巻きに過ぎず、どれだけ倒したところで意味はなかった。
どういう原理なのかは分からない。
だが取り巻きは倒しても、一定時間で再出現するのだという。
しかも放置すると与えた傷が回復してしまうらしい。
まるでゲームのボス戦。
普通に考えれば異常なことだが、ダンジョン内ではなにが起きても不思議ではない。
そう言うものである以上、それを受け入れ対応するしかないだろう。
「……そろそろ行くぞ」
こくりと頷く鵜坂を確認し、海斗は駆け出し――
すれ違いざまにゴブリンを殴りつける。
「ギャッ!?」
「グッギャアア!!」
攻撃を受けた二匹のゴブリンは、地面に転がり悶え苦しむ。
深手を負ってはいるが致命傷と言うほどではない。
海斗にとってオークは初めて対峙する相手。
余計な邪魔を排除し戦いに集中したい。
ならばあえてゴブリンを倒さず、引き付ければいい。
それが戦闘前に鵜坂と決めていた作戦だ。
四匹同時に相手をするのは難しくとも、二匹であれば問題ない。
それは先日彼女の戦いを見て判断した適正数。
鵜坂がゴブリンと対峙する気配を背中で感じながら、振り返ることなくボスへと向かう。
あとは海斗がオークを倒せるかどうか――すべてはそこにかかっている。
「ブッブッブッ」
なにがおかしいのか、オークは笑う。
モンスターの気持ちなど分かるはずもないが、恐らく完全にこちらを格下だと思っているようだ。
ヤツからしてみれば今まで何度もやってきては、逃げ帰っていた相手。
その仲間も同程度の実力と油断するのも無理はない。
「……喰らえ!!」
海斗は更に加速し、全力で大地を踏みしめる。
一瞬でオークの懐に潜り込み――必殺の一撃を放つ。
「ブッヒーーーーーーー!?」
拳が皮鎧にめり込み――
弧を描くようにオークの身体が吹き飛ぶ。
地面を転がり、闘技場の壁まで運ばれる巨体。
海斗は即座に後を追い、地面を踏み切り――
「ブッ! ……ブヒッ!!」
放った跳び蹴りをオークは必死で転がりながら避ける。
「チッ……焦りすぎたか」
思いの外、機敏な動きに海斗は舌打ちする。
目の前ではバトルアックスの地に突き立てながら、体勢を整えるオークの姿。
派手に吹き飛んだものの、それほど大きなダメージは見られない。
正面から対峙する両者。
先に動いたのはオークだ。
こちらに向かって一歩踏み込むと、手にしたバトルアックスを横薙ぎに振るう。
「……ブフォ!?」
海斗は身を屈め距離を潰し、オークに一撃を見舞う。
しかしオークは油断していない。
既に攻撃を受ける覚悟を決めており、先程のように吹き飛ぶことはなかった。
海斗の拳を受け一歩下がるが、怯むことなく――
叩き潰すようにバトルアックスを振り下ろす。
盛大な衝撃音と共に穿たれた大地。
しかしそこには――なにも存在しない。
攻撃の瞬間、海斗は一瞬で飛び退き回避を成功させていた。
額を伝う汗。
オークと睨み合いながら構えをとる。
金属製の武器をものともしない膂力。
思っていた以上の打たれ強さ。
漆黒の騎士と比べれば大した相手ではないかもしれない。
しかしヤツからは、ホブゴブリンと互角かそれ以上の力を感じている。
決して油断できる相手ではない。
流石に素手で相手をするには厳しい。
だが海斗の頭を悩ませる問題はそれだけではない。
視線の先――オークの身体から立ち上る光。
みるみるヤツに与えた傷が癒えていく。
多少のダメージではすぐに回復されてしまうのだ。
このままでは海斗の体力が先に尽きてしまうだろう。
自身の火力不足に思わず顔が引きつるのを感じた。




