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勝利の報酬

 ずっしりとした確かな感触。

 夜の闇を切り取ったかのような色彩。

 それはかつて死闘を繰り広げた強敵――漆黒の騎士より譲り受けた大剣。


 こうして戦場で使用するのは初めてのはず。

 しかし驚くほど手に馴染み、まるでずっと共にあったかのような安心感を感じさせる。


「ぶぶっ!?」


 海斗はエモノを中段に構え、対峙する。

 視線の先には、身構えるオーク。


 ヤツは突然現れた大剣に驚きを示している。

 だがその目はしっかりと海斗の動きを観察していた。


 見つめ合う両者。

 オークから見れば海斗は小さき者。

 本来であれば、蹂躙する対象でしかないはずだ。


 しかしその額からは汗が滲み、身体は小刻みに震えている。

 対峙する海斗から発せられる殺気に、気圧されているようだ。


「ぶるぉぉぉおおおお!!」


 先に動いたのはオーク。

 プレッシャーに耐えかねたのだろう。

 雄叫びを上げながら戦斧を大上段に振り上げる。


 もし海斗が素手のままであったなら、特別問題にはならない行動。

 しかし武器を手にした今、それは決定的な隙だ。


 身をかがめながら駆け出す海斗。

 一瞬で距離を詰め、すれ違いざまに――一閃。

 オークはびくりと反応し、戦斧を構えたまま硬直する。


 海斗が大剣を素早く振るうと、刃から粘性のある液体が飛び散り闘技場の地面を濡らす。


 巨体にゆっくりと赤い線が走り――

 オークは臓物を撒き散らしながら血だまりに沈んだ。



 戦闘を終えた海斗は、鵜坂の元へと向かう。


「それって……一体……」


 驚きの声をあげながら、鵜坂はこちらを見つめてきた。

 その視線は海斗の持つ武器化したマテリアルに注がれている。


 なにもない場所から大剣が現れたのだ。

 戸惑う気持ちもよくわかる。


「あーなんて言うか……そう、武器だ!」


 しかしそれは海斗とて同じこと。

 マテリアルがなぜ武器化したのか。

 その理由は海斗にもわからない。


 そんな状態では当たり前の言葉しか、発することができなかった。


「えっと、それは言われなくてもわかるんですけど……」


 しかしそれでは納得できないのだろう。

 鵜坂はさらなる説明を求めるように、こちらをじっと見つめてきた。


「…………」

「…………」


 無言のまま見つめ合う二人。


 さてどう答えるのが正解なのだろう。

 マテリアルの原理がわからない以上、海斗にも確かなことなどわからない。


「うん。ダンジョンだから」

「……えっ?」


 絞り出したのはどうしようもない解答。

 だがよくわからないことは説明できない。


「いやだから、ここってダンジョンだろ? 不思議なことがあっても仕方ないって!」

「な……なるほど……」


 すべてダンジョンが悪い。

 そうゴリ押しすることで、なんとか話を終わらせる。

 追及されたところで返せる答えなど持ち合わせていないのだから。


 しかしやはり納得することは難しいのだろう。

 鵜坂はかわいらしく唸り声をあげている。

 どこかもにょっとした感情を消し去ろうとしているようだ。


 多少手間取ってしまったが、村本との約束は果たした。

 もうすでにこの場所に用はない。

 あとは自分の目的を達成するために行動してもよいだろう。


 周囲に見回すと、視界の端でオークが光の粒になって消えていく。

 まずは下層へと続く場所を探す必要がある。

 そう考え歩き出そうとした瞬間、海斗は身体に振動を感じた。


 取り出したのは、スマートフォン。

 慌てて画面に視線を向けると――


「……ッ!」


 九割まで貯まった段階から、まったく動くことのなかった緑色のバー。

 そのゲージが――上限に達していた。


「……? センパイ、どうかしたんですか?」


 不思議そうな表情を浮かべながら、鵜坂はスマホを覗き込んでくる。


「ああ、これは……」


 彼女にも説明する必要があるだろう。

 しかしそんな海斗の言葉を遮るように、ディスプレイが点滅する。


「えっ! なっ……センパイ!?」


 驚き説明を求めてくる鵜坂。

 しかし海斗にも、なにが起こっているのかわからない。


「…………」


 スマホから溢れ出す光。

 目を逸らすことができず、無言のまま立ち尽くす海斗。


 見つめる先では小さな人型に光が集まり、その中から――ティセが飛び出してきた。

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