決着の時②
交錯する刃。両者は正面から全力でぶつかり合う。
海斗と漆黒の騎士、互いの力はほぼ互角。打ち合う大剣は拮抗し、双方一歩も引く様子は見られない。
騎士が弱っているということもあるだろう。しかし、この状況は海斗の成長による部分も大きかった。
元々は相手の方が絶対的に上位の存在。
だがあと一歩。僅かな成長を果たすことが出来れば、漆黒の騎士を超えることが出来るかもしれない。
海斗が更に大剣に力を込めると――金属が軋むような嫌な音が響く。
それは不安を感じさせる、不快な音色。
発生源は――海斗の持つ親分の大剣。刀身に細かな罅が走り、ピキピキと何かが崩れるような異音が聞こえてきた。
度重なる剣戟。そして成長していく海斗の能力に、ついに武器が耐えられず悲鳴をあげる。
あと少し、この戦いが終わるまで保ってくれ。
海斗は強く願うが、拮抗する互いの膂力によって大剣の破壊は進んでいく。
両手は大剣を握り締めており、両足は騎士の剣圧に負けぬよう、大地を踏みしめている。
このままではいけない。強くそう思うが、現状海斗に出来ることはなかった。
「……くっ!」
漆黒の騎士が大剣に込める力を強める。何とか拮抗していた刃が少しずつ押し返されていく。
武器が破壊されるのが先か、それとも押し巻けるのか先か。
あと一手。何かがあれば押し勝つことが出来る。
しかしその一手は果てしなく遠く、海斗の目に光明は映らない。
思わず地面に膝を突きそうになる。だがもしそうなってしまえば、待っているのは死という名の結末だけだろう。
何も出来ないまま、現状を維持することしか出来ない――
「海斗さん!!」
――そんな海斗の考えを吹き飛ばす少女の呼び声。
それは今、この場所で聞こえるはずのない――歌恋の声。
幻聴だろう。そう考えようとする海斗だったが、現実はそれを許さない。
「……なっ!?」
驚きのあまり騎士から逸れそうになる意識を、意思の力で必死に繋ぎ止める。
ジリジリと騎士に押し込まれながら見たもの。
視界の隅に捉えたのは間違いなく――歌恋の姿だった。
突然現れた少女の姿に困惑するが、今は騎士から目を逸らすわけにはいかない。
二人の刃はギリギリで均衡を保っている。今、下手な動きをすれば命取りになってしまう。
歌恋は手にした弓に矢をつがえ構えるが、その腕に力は感じられない。
漆黒の騎士も彼女の姿を視界に捉えるが、海斗と同じく下手に動くことは出来ず、一瞥するだけに留める。
例え歌恋から矢を射かけられたとしても、大した問題ではない。そう考え目の前の海斗に集中すると決めたようだ。
再び親分の大剣からミシリと崩壊を告げる音が響く。驚いてばかりもいられない。もはや一刻の猶予もない。
いくら一部鎧が剥がれ落ちているとは言え、今の歌恋では漆黒の騎士に痛手を与えることは出来ないだろう。
何とか彼女だけでも逃がさなければ。
大剣の崩壊を止めることが出来ない。ならばすぐ行動を起こすしか――
しかし海斗の覚悟も虚しく、親分の大剣はその役目を終える。
半ばから砕けるように折れていく親分の大剣。
海斗は周囲がスローモーションで流れるような錯覚に囚われる。
身をかがめながらタックルを仕掛けるように一歩を踏み出そうとした瞬間――甲高い音が鳴り響く。
「……しまっ!?」
突然のことに踏み出そうとした足が止まる。
緩やかな曲線を描きながら騎士に向かって飛んでくる歌恋の放った矢。
――その先に音の発生源はあった。
それは防犯ベル。しかしいくら音が鳴ったところで、海斗に集中している騎士が気を逸らすことはないだろう。
海斗はそう考え致命傷を避けるため振り下ろされる漆黒の大剣に意識を向ける。
しかし驚くべきことが起こった。
――漆黒の騎士が動きを止めている。
自身に向かってくる矢に向かって、頭部を守るように大剣を盾に身を硬くしていた。
その姿は、まるで衝撃に備えているように見え――
「そういうことか!」
海斗は騎士の姿から動きを止めた理由を察する。
人生は何が幸いするのか分からない。
防犯ブザーは漆黒の騎士にとっては未知の道具。
そうそれは――初撃のガスボンベと同じように。
訪れた千載一遇のチャンスに海斗は一歩を踏み出す。
ひび割れた鎧の脇腹を突き破るように、折れた大剣を突き立てる。
反撃の隙など与えない。残された全ての力を解放し、騎士の身体ごと大地を走る。
加速と共により深く、折れた大剣を突き込んでいく。
『グルォォォオオオオ!?』
漆黒の騎士は唸り声を上げ抵抗しようとするが、海斗はそれを許さない。
無心のまま闘技場を駆け抜けると強い衝撃が走った。
――目の前に広がるのは闘技場の壁面。
石壁に漆黒の騎士を押し付けるように、海斗は更に全力で踏み込む。




