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決着の時③

 海斗の手にしていた親分の大剣。その残されていた刀身が砕けて行く。

 しかし騎士の眼に灯った赤い炎は消えることなく、抵抗は続いている。


 はたして素手で止めを刺すことが出来るのか?

 そんな不安と共に海斗の脳裏に一番最初の戦いが思い起こされる。

 そうだ、あの時のように――海斗は視界の中から武器になる物を探す。


 しかし闘技場の中は綺麗に整地されており、使えそうな物は見当たらない。

 刀身が砕け散り、残された柄ごと拳を握り締め――


「マスター!!」

 海斗の側に飛来する小さなパートナー。

 ティセは何かを抱えこちらに向かってくる。


「……!!」

 彼女の持ち込んだものそれは――小鬼の短刀。

 海斗は手元に残された柄を投げ捨てながら、全力で左拳を放つ。


 骨に響く衝撃。怯む漆黒の騎士。

 柄を手放し空いた右手を差し出し、ティセから短刀を受け取る。

 先程まで手にしていた大剣と比べて心許ない刃。


 しかしそれはティセの届けてくれた僅かな光明。身体ごとぶつかるように、漆黒の騎士へと全力で短刀を押し込む。

 必死に抗い続けていた漆黒の騎士。しかし徐々にその抵抗が弱まっていき――最後まで握り締めていた大剣が地に落ちる。


 油断なく様子を窺うが、動き出す気配はない。

 本来なら勝利の凱歌を上げるべき場面。

 しかし海斗も限界だったのだろう、その身体から力が抜けていき――騎士へと寄りかかるように倒れ込み息を荒げる。


「マスター!?」

 物凄い勢いで倒れた海斗に抱きつくティセ。

 心配させぬように彼女の頭を軽く撫でる。


「マスター……無事で良かったよぉ……」

 今までの戦いでここまでボロボロになることはなかった。

 だからこそ、ティセが心配してしまうのも仕方のないことだろう。


「海斗、さん……大丈夫、ですか?」

 こちらへと一歩一歩ゆっくりと近づいてきていた歌恋の発した言葉。


「それは……こっちの台詞、だろ」

 答える声には、言葉に出来ない複雑な感情が渦巻いていた。

 海斗はゆるゆると立ち上がりティセと共に歌恋の元へと向かう。


 お互いに支え合うように立ちながら、誰からともなく笑みを浮かべる。

 長く苦しい戦いを終え、漆黒の騎士を倒すことに成功した。


 彼女たちがいたからこそ得ることの出来た勝利。

 これで何かが解決したのか、何か変化があるのかは分からない。

 だが今はただ勝利の余韻に浸っていたかった。



「これからど……」

「……!?」

 驚きの表情を浮かべ身を硬くする歌恋。

 今後の方針を話そうかと考えていた海斗は、彼女の妙な反応に首を傾げる。


「どうした、歌恋?」

 彼女の指し示す先、それは先程まで漆黒の騎士が倒れていた場所。

 不思議に思いながら振り返ると――


「……なっ!?」

「うそっ!?」

 海斗とティセの表情に強い驚きの色が浮かぶ。


 二人の視線の先には、命を賭けて打ち倒したはずの相手――大剣を支えに、闘技場の壁面に持たれるように立ち上がった騎士の姿。

 全く予想していなかった事態に海斗は身構えるが、その手元に武器となるものは存在しない。


 小鬼の短刀は騎士の腹部に刺さったままだ。

 いや武器だけの問題ではない。限界まで酷使した海斗の身体には、最早戦うだけの力は残されていない。


『…………』

 だが、どうしたことだろう。騎士は海斗に視線を向けるばかりで動こうとはしない。

 その身に戦意はなく、いやそれどころか――


 バカを言うなと一笑されてしまいそうな考えが海斗の脳裏を過ぎる。

 だがどうしても浮かんだ考えが正しいと思えてならない。

 ――漆黒の騎士が海斗を呼んでいると。


「海斗さ……」

「マスター……」

 引き止めようとする二人を制し、眼前の騎士へ向かって歩いて行く。


 手が届くほどに距離が縮まると、騎士は地面に突き立てていた漆黒の大剣を抜き放ち――逆手に持ち替え、その柄を差し出してくる。

 導かれるように海斗が手を伸ばす。漆黒の大剣を手に取ると、まるで最初から自分の物であったかのように手に馴染む。


 大剣を受け渡すと、騎士は手を離し地面へと倒れ伏していく。

 きっと二人に話しても信じてくれないかもしれない。

 だが海斗は間違いないと確信を持っていた。


 大剣を受け取った時――騎士は嬉しそうに笑っていたと。

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