決着の時①
細かいことなど最早どうでもいい。
今となっては頭を使ってなにかを考える必要などない。
ただ無心で、身体の反応するまま戦い続けるだけだ。
海斗は迷うことなく、一直線に騎士への最短距離を進む。
そして身体のしなりをバネの様に利用した渾身の一撃を放つ。
胴に、腕に、胸元に数え切れない程の斬撃を浴び続ける。
一撃、一撃、攻撃を繰り出すたびに海斗の剣筋は研ぎ澄まされ、天秤の拮抗が崩れていく。
全ての攻撃を軽々と受け止めていたはずの騎士の被弾が増えていき――少しずつ海斗の斬撃が通り始める。
繰り返される攻防の中で磨かれ、鋭さを増していく剣技。
騎士の身を包む鎧に欠損が生まれ、その身体に傷を付けていく。
積み重なったダメージの影響だろうか。押し負けていたはずの膂力も、少しずつ逆転しつつあった。
次第に海斗が騎士を押し出すようになっていく。
言葉に出来ないほどの強い高揚感を覚える。それは一太刀、一太刀、繰り出すたびに、自身が強くなっていくと分かるからだ。
今までの人生で感じることが出来なかった、目に見える形での明らかな成長。
秒単位で更新されていく自らのベストを確かめる様に、次々と漆黒の騎士へと攻撃を繰り返していく。
――そして生まれる好機。
横薙ぎに振るわれた斬撃によって、漆黒の騎士の体勢が崩れ片膝を突く。
今しかない。海斗は全力で踏み込み、大上段から袈裟斬りに必殺の一撃を放つ。
空気を切り裂く音と共に漆黒の騎士へと迫る刃。
避けることが不可能なタイミング。絶対に対応出来ない一撃。
首元に吸い込まれていく必殺の斬撃が――
『グルオオオオオォォォ!!』
漆黒の騎士が放つ裂帛の気合いによって弾き返される。
騎士から赤黒いオーラが立ち上った瞬間――
海斗の身体に強烈な衝撃が走り、大地に二本の線を残しながら壁際まで押し出された。
追い詰めていたはずの相手に起こった突然の変化。
赤黒いオーラをまといながらおもむろに立ち上がると、海斗に向かって一歩を踏み出し――
先程までの精彩を欠いた動きが夢であったかのように、凄まじい勢いで走り出す。
海斗は繰り出される一撃を大剣で受け止めるが、その重さに片膝を突きそうになる。
全力で押し返すと、交錯した刃がギリギリと嫌な音を立てた。
力を取り戻したように見える漆黒の騎士。
海斗に傾いていたはずの天秤が徐々に押し戻されていく。
刃と刃が交わり膠着状態になり――海斗は気付いた。
騎士の身体から流れる血が赤黒い煙へと変わり立ち上っていることに。
オーラだと思っていたのは、騎士の身体から溢れ出た血の残滓。
自らの命を燃やしながら、挑みかかってくる漆黒の騎士。
その姿からは全てを賭ける覚悟を感じる。
しかし時間の経過と共に身体から立ち上るオーラは減少していき――それに伴い騎士の力が失われていくのが分かった。
終わりの時が近づいている。刃が弾かれ互いの距離が離れると、共に必殺の一撃を仕掛ける体勢に入った。
もしこのまま時間を稼げば、なにもせずとも海斗が勝利出来る可能性は決して低くないだろう。
だが騎士の覚悟を見て取り、自らを高みに導いてくれた好敵手に応えることを決意する。
二人の呼吸が交わり――同時に全力で駆け出す。




