戦闘開始②
このチャンスを逃す訳にはいかない!
傍から見れば卑劣極まりない状況。しかし格上相手にそんなことは言っていられない。 海斗は大剣を手に全速力で闘技場を駆抜ける。
ふらふらと立ち上がろうとしている漆黒の騎士に向かって――
「おおおおおぉぉぉぉ!!」
あと数歩と言った距離で大地を踏みきり、全力で斬りかかる。
何とか立ち上がった。そんな状態の騎士へと袈裟懸けに振るわれる刃。
――甲高い金属音が響く。海斗の放った必殺の一撃は首の皮一枚、ギリギリの所で受け止められていた。
恐るべきは漆黒の騎士の生命力。
あれだけの爆発の中、まだこれほどの力を残している。
全力を込めているにも関わらず、刃が拮抗している状況には驚きしかない。
ギリギリと不快な摩擦音を立てながら絡み合う大剣。
騎士は傷を負いながらも刃を振るい、海斗の身体が後方へとずれる。
『ハァハァハァハァ……』
荒い息を吐きながら、騎士はこちらに向かって漆黒の大剣を構える。
兜から漏れ出る真紅の輝きは、この程度で俺を倒すことは出来ないと物語っているようだった。
海斗の脳裏に去来するのは、目の前の存在に対する畏敬の念。
男に産まれた以上、強さを求めるのは当然のこと。
敵に抱く感情ではないことは理解している。だが海斗は漆黒の騎士に対して羨望にも似た感情を抱き始めていた。
遺伝子レベルで組み込まれた本能が、目の前に存在する目指すべき頂に敬意を示す。
普通に戦っていたとすれば、絶対に勝つことの出来ない相手。
しかし僅かに揺れている漆黒の剣先が、鎧から流れ出る血の色が、騎士の消耗が確かなものであると証明している。
この強者を倒せる可能性は今この時をおいて存在しない。
迷っている暇などない、今はただ全力で目の前の存在を打倒するだけだ。
海斗は容赦なく大剣を振るい騎士へと攻撃を繰り返す。
しかし騎士は少しふらついた様子を見せるものの、こちらの斬撃に対し的確に反撃を仕掛けてくる。
いくら傷付いていたとしても、簡単には勝てる相手ではない。ほんの一瞬さえも気の抜けない攻防を繰り返しながら、海斗は騎士の隙を窺う。
初めて戦った時と比べれば明らかに精彩を欠いた動き。
しかし、それでも漆黒の騎士は海斗が全力で放つ斬撃に対応してくる。
――やはり、強い。
これだけのダメージを受けながら、それでも決定打を許さない実力には底知れない物があった。
打ち合った刃に弾かれ、お互いの距離が開く中、海斗は折れそうになる気持ちを奮い立たせ騎士を睨みつける。
絶対に負けられない戦い。
だからこそ、使える手は何でも使うべきだ。
正攻法ではないのかもしれない。
しかしこのまま普通の戦い方を続けていても、活路を見出すことは難しいだろう。
今出来る全ての手段を用いて、この漆黒の騎士に挑むことを決意する。
選択したのは脇構え。剣道では使う者のいない、現代ではアニメや漫画の中でしか見ることのない特殊な構えだった。
刃先で浅く地面を削りながら、全力で一歩を踏み出す。
漆黒の騎士はこちらの一撃を受け止めようと中段に構え待ち構えている。
この姿勢から繰り出せる一撃は斜めに切り上げるのみ。
だが、ただ普通に攻撃をすることはない。
切り上げに乗じて、剣先で削り取った砂を飛ばす。
飛礫が騎士の視界を遮り、二人の刃が交わる。
ぶつかり合う衝撃に合わせて後方へ飛び退き距離を開けた。
視界を塞がれ、こちらの位置を掴むことの出来ない騎士に向かって、姿勢を低くしながら駆け出し――
スライディングをしながら擦れ違い際に足元を斬りつける。
確実に足を切り飛ばす勢いの一撃。しかし騎士は殺気を感じ取り、片足を上げることで攻撃を回避した。
海斗は止まることなく駒のように回転。弧を描くように斬撃を繰り出すが、騎士は体勢を崩しながらも反応する。
漆黒の大剣を地面に突き立てるようにして攻撃を防御した。
まだ視界は回復していないはず。なぜこの一撃を受け止められるのか。
突き立てた大剣を視点にして一瞬で距離を取る漆黒の騎士。
ヤツは大剣を中段に構えながら、こちらに剣先を向けてくる。
その姿は海斗に向かってもっと力を見せてみろと言っているように見えた。
海斗は自らの内に去来する感情に思わず口元を歪める。
驚きでも怒りでもないその感情は――喜び。
自らの限界を超える攻防を繰り返し、更なる成長を求める心情の発露。
歪めた口元が形作っているのは、まごうことなき笑みだった。




