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戦闘開始①

 漆黒の騎士が地面に突き立てていた大剣を抜き、中段に構える。

 恐らく投擲したモノを迎撃するつもりなのだろう。

 本来ならばその隙に攻撃をしかけるのが定石なのかもしれない。


 しかし海斗は攻撃をしかけなかった。騎士が構える姿を横目に見ながら、入り口付近の外壁にピッタリと背を付ける。

 半身で覗き込むように騎士の挙動を観察しながら取り出したのは松明。それはカフェのキッチンにあったすりこぎ棒、食用油、タオルを使って作成した物だ。

 空いている方の手でポケットから取り出したライターを使い松明に点火。慎重にタイミングを計る。


『……セエエエエエェェイイッ』

 漆黒の騎士が気合いの声と共に大剣を振るうと、金属が打ち合わされる甲高い音が響く。

 金属製のそれらが連続して袈裟斬りにされた瞬間――海斗は手にした松明を全力で振りかぶり騎士に向かって投擲する。


「ティセ!」

「うん。マスター!」

 ティセに声をかけながら、すぐさま晒していた半身を闘技場の外壁に隠す。

 胸元のティセと共に手の平で両耳を塞ぎ、彼女を庇うように蹲る。

 ――響き渡る轟音と熱波。ダンジョン全体が揺れるような衝撃が走った。


「ちょっ……マスター!? これ、とんでもないんだけど……」

「ああ、動画で見たことはあったけど……想像以上だな……」

 カフェで使用されていたプロパンガスボンベを利用した攻撃。

 天に向かって吹き上がる爆炎は凄まじい熱量を帯び、知識と現実の違いをまざまざと見せつける。


「……やり過ぎたか?」

 ――想像を超える爆発。それは大は小を兼ねるとばかりに、店舗に設置されていたボンベを二つとも投げつけたことによる弊害だった。

 胸元の慌てふためくティセ。体勢を崩している海斗の姿からも、その激しさが伝わってくる。


 洞窟が崩れてしまうのではないかと不安になるほどの衝撃に、少しやり過ぎてしまったかもしれないと自省する。

 だがあの漆黒の騎士を相手取る以上、加減を考えている余裕などなかった。


「でもさ、これなら……」

 海斗の胸元から抜け出し、場内の様子を窺うティセ。

 彼女の言葉に頷きを返しながら、黒煙と舞い上がる砂塵の先に視線を向ける。


 壁に立てかけていた親分の大剣を素早く手に取り、油断なく視界が晴れるのを待つ。

 一瞬の変化も見逃さない。強い意思を込めて、海斗は漆黒の騎士がいた辺りを鋭く睨む。

 自らの呼吸が耳障りに思えるほどの緊張感が周囲を支配する中――



「なっ……」

 驚きに海斗の表情が固まる。

 少しずつ晴れていく視界に映ったのは、女神像を守護するように仁王立ちとなった騎士の姿。


「えっ……あれって!?」

「おいおい、嘘だろ……」

 思わず漏れた声がその心情を雄弁に物語っていた。


 あれだけの爆発の中、無傷だとでも言うのだろうか?

 もしそうだとすれば、海斗にとれる手段など何も残されてはいない。

 視線を逸らすことが出来ず呆然と立ち尽くす海斗の目の前で変化が起こる。


『グフッ……』

 漆黒の騎士が片膝、片腕を地に突き蹲る。


 ――効果は絶大だ。

 本来ならばこの成果に歓声を上げるべきかもしれない。

 しかし海斗は作戦が成功したことよりも、騎士が吐血したことに意識を奪われる。


 それは視線の先いる相手が正体不明の存在ではなく、自分と同じ生物だと理解したからだ。

 漆黒の騎士は確かに強いかも知れない。だが生きているのならば、必ず倒すことが出来るはず。


 傷つき明らかにダメージを感じさせる騎士の姿に、海斗は一筋の光明が差したように感じる。

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