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嵐に散った42歳厨二病、異世界で念願の【忍者】になりました  作者: ペクチン21字


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7/10

7話 街道の灯火と、夜陰に踊る忍び

鬱蒼とした樹海を疾走する感触は、前世の四十路だった頃の肉体では絶対に味わえない、脳が痺れるような快感だった。

枝から枝へ、一切の足音を立てずに跳躍する。着地の衝撃は膝としなやかな筋肉が完璧に吸収し、体幹はブレない。14歳の肉体の若々しさと、異世界のシステムがもたらす忍者スキルの補正。それらが完璧に噛み合わさった現在の動きは、まさに前世で俺が夢にまで見た「本物の忍者」そのものだった。

(くっくっく……ハハハッ! これだよ、これ! 影を駆け、夜に紛れる者……! 四十年間温め続けた俺の忍びの技が、いま異世界で結実している……!)

脳内で勝手に怪しいBGMを響かせながら、俺は一人で猛烈な興奮に震えていた。前世の自分がこれを見たら、あまりのスタイリッシュさに感涙するに違いない。

もちろん、単に調子に乗って浮かれているわけではない。一度調子に乗ってボス級の巨獣に死にかけた教訓は、骨の底まで刻み込まれている。

(興奮と警戒は別物だ。大人の嗜みとして、索敵は怠らない……!)

耳を澄まし、中級へと成長した『息潜め』を常時発動させて気配を極限まで削ぐ。四方に鋭い視線を配り、風の匂いの変化に気を配りながら、慎重かつハイスピードで森の斜面を駆け下りていった。

やがて、前方の密林が徐々にまばらになり、木々の隙間から白銀色の月光が束となって射し込んでくる。

(森の終わりか……? ようやく抜けるか!)

俺は最前線にある太い樹木の太枝に着地し、身を低くして葉の茂みから眼下を見下ろした。

森を抜けた先に広範囲に渡って広がっていたのは、夜の静寂に包まれた広大な街道と、その沿線に広がる灯火の集落だった。

木造や石造りの重厚な建物が数十軒ほど立ち並び、ところどころの窓からオレンジ色の柔らかい光が漏れている。集落の周囲は頑丈そうな木柵で覆われ、街道と接する中央部には石造りの立派な門が構えられていた。門の脇には松明が焚かれ、長槍を手にした兜姿の見張り兵が二人、欠伸を噛み殺しながら立っているのが見えた。

(完璧だ……! まごうことなき中世ファンタジー風の街並み! そして生きた人間たちの文明圏……!)

激闘の果てにたどり着いた人の気配に、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。ふかふかの布団、暖かい料理、文字通りの人間らしい生活。どれもが喉から手が出るほど欲しいものばかりだ。

「よし、助かった……!」

と思わず木から飛び降りそうになった瞬間、俺の中の四十路の経験と大人の感覚が、強烈なストップをかけた。

(待て待て待て! 落ち着け俺! ここで『助けてくださーい!』って無警戒に駆け寄ったらどうなる!?)

冷たい夜風を浴びながら、頭を冷やして冷静に現状を整理する。

今の俺の身なりはどうだ。夜の森からボロボロの服で突然現れた、14歳前後の謎の少年。しかもポケットには魔物の鋭い牙や、手裏剣代わりに拾ったただの小石を忍ばせている。さらに言えば、この世界の言語が通じるかもわからないし、身分を証明するIDも手形も持っていない。

そんな奴が夜間に正面門から入ろうとすれば、どうなるか。

(確実に不審者として捕縛されるか、最悪の場合は問答無用で長槍の露だ。治安の悪い世界なら、奴隷として売り飛ばされるリスクだってゼロじゃない)

ヤバい橋は叩いて叩いて、安全を確認してから渡るのが大人の鉄則だ。素直に正面突破を選ぶなど、危機管理能力がなさすぎる。

(それに……せっかく手に入れた忍者スキルだぞ? 正面から堂々とお願いして入るなんて、忍びの道に反するじゃないか……!)

俺はニヤリと口元を歪めた。そうだ。こちらには『息潜め(中級)』があり、『煙幕(初級)』があり、研ぎ澄まされた感覚がある。

なら、やるべき選択肢は最初から一つしかなかった。

(夜陰に紛れ、気配を絶ち、門兵の目を盗んで潜入する……。そして街の情報を隠密裏に収集する……! ククク、これぞまさに『忍びの初陣』……!)

現代で鍛え上げられた男の浪漫と、異世界で開花したスキルが完全に合致した。

俺は太枝の上で姿勢をさらに低くし、門周辺の構造と見張りの動きをじっくりと観察し始めた。

見張りの兵士は二人。松明の光が届く範囲は限定的で、門の左側にある木柵の影は濃い暗がりになっている。さらに、定期的に見張りの一人が巡回のために配置を離れる瞬間があることも分かった。

(目標、左翼の木柵の影。タイミングは巡回兵が背を向けたコンマ数秒……!)

ポケットの中にある小石の感触を確かめ、呼吸を深く整える。

MPを全身に巡らせ、『息潜め(中級)』を発動。己の存在感がまるで夜の空気と同化していくような独特の感覚が全身を包み込む。

(行くぞ……!)

巡回兵が足音を響かせて背を向けた瞬間、俺は樹上から飛び降りた。

トッ、と爪先から地面を叩くかすかな音すら夜風の音に掻き消させる。月明かりが届かない建物の影から影へ、流れるような動作で滑り込んでいく。

門兵の真横、距離にしてわずか数メートルの位置にある木柵の暗がりへ。俺は完全な影と化して潜り込んだ。

見張りの兵士たちは、自分たちのすぐ目と鼻の先を、一人の忍びが通り抜けたことにすら気づいていない。

(よし……第一関門突破……!)

柵の隙間をすり抜け、集落の内側へ足を踏み入れる。

頭上には二つの月。足元には見知らぬ異世界の石畳。

俺の胸は、42年の人生で一度も味わったことのないような純粋な冒険心と熱量で満たされていた。

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