6話 スキルの検証と、人里への足がかり
冷えた夜風が、汗の引っ込んだ頬を撫でていく。
激闘の興奮が冷めるにつれ、俺の意識は冷静さを取り戻していった。巨獣の死骸からは生臭い血の匂いが立ち込めており、この臭いを嗅ぎつけた別の捕食者が現れるのは時間の問題だ。
「まずは、新しく手に入れた能力の確認だな」
俺は倒れた樹木の影まで移動し、腰を落ろした。
今回の戦闘で得た最大の成果は、レベル上昇による数値強化と、スキルの成長だ。
中級に進化させた『息潜め』と『手裏剣術』、そして新しく生み出された『煙幕』。ぶっつけ本番で使って不発に終わる絶望は、あの巨獣戦だけで十分だった。安全を確保するためにも、効果と仕様の把握は急務と言える。
「よし、試してみるか……『煙幕』」
意識を集中させ、少量のMPを練り上げる感覚でスキルを発動した。
シュオッ!
掌から一気に濃密な灰色の煙が吹き出し、あっという間に俺の周囲数メートルを覆い尽くした。
(おお……! かなり視界が遮られるな。煙自体に匂いはなく、目にも染みない)
煙の内部から外を窺うと、内側からでもやや視界は悪くなるものの、外からの視線は完全にシャットアウトされていた。発動に要したMPはごく僅かだ。
さらに、ここで『息潜め(中級)』を同時に重ねて発動させてみる。
自身の存在感が一段と薄れ、煙の視覚阻害と相まって、完全に気配が消え去った感覚があった。これなら不意打ちの離脱や、死角からの奇襲に絶大な効果を発揮するはずだ。
(煙幕で視界を奪い、中級になった息潜めで気配を消し、中級の手裏剣術で影礫を叩き込む……。立派な生存コンボの完成じゃないか)
前世の業務マニュアルを組み立てるような感覚で、頭の中で連携パターンを整理していく。手裏剣術の威力向上も気になるところだが、無駄に音を立てて敵を引き寄せるわけにはいかないため、こちらは次の実戦に取っておくことにした。
巨獣から剥ぎ取った鋭い牙と、手頃な大きさの小石をいくつかポケットに詰め込み、俺は立ち上がった。
見上げると、夜空にはふたつの月が静かに浮かんでいる。方位磁針も地図もないが、巨獣が暴れて開けた視界の先、木々の切れ目から遠くの地形がうっすらと見えた。
深い森の向こう、緩やかな傾斜の先には開けた平地が広がっているように見える。
文明が存在するなら、水場や街道の近く、あの平野付近にあるはずだ。14歳の身軽な体躯は、レベルアップも相まって驚くほど軽い。
「安全第一、定時退社精神で慎重に行くとするか」
煙幕の残り香を払うように息を吐き出し、俺は身を低くした。
正直、またあんなバケモノと出くわしたら命が幾つあっても足りない。一刻も早く、ふかふかの布団と温かい飯がある人間様の文明圏に辿り着かなければ。
俺は周囲の気配に全神経を研ぎ澄ませながら、木々の隙間をすり抜けるように走り出した。




