3話 手裏剣術の開花と、拾った小石
「手裏剣術、か……」
レベル2へ上がると同時に脳内へ直接流れ込んできたのは、未知なる技術の感覚だった。
身体の軸の通し方、手首のスナップ、指先へ伝える力の加減。まるで何年も投擲の訓練を積み重ねてきたかのように、技のイメージが鮮明に浮かび上がる。
「素晴らしい……! これぞシステム転生者の醍醐味……っ!」
俺は一人で歓喜に震え、誰もいない森の中で静かに拳を握りしめた。
しかし、次の瞬間に現実に引き戻される。
ポケットを探ぐってみても、入っているのは若返った時に着用していたジャージと、先ほどウサギを叩きのめした木の枝だけだ。
「……待てよ。肝心の手裏剣がないじゃないか」
いくら脳内に完璧な投擲フォームが刻まれようと、投げるモノがなければ意味をなさない。当然ながら、都合よく金属製の十字手裏剣や棒手裏剣が落ちているはずもなかった。
「ふむ……だが、真の忍びとは環境を選ばないものだ。日常のあらゆる物体を凶器に変えてこそ、影に生きる暗殺者……!」
厨二病の血が騒ぎ出す。要するに「投げて刺さる、あるいは打撃を与えられる代用品」を探せばいいのだ。
周囲を見渡しながら歩くと、足元には手頃な大きさの小石が幾つも転がっていた。
川原で拾ったような平たい石、やや角張った硬い黒石。俺は吸い寄せられるようにしゃがみ込み、手のひらに収まるサイズの上質な石を厳選して拾い上げる。
「これは……重さといい、掌への馴染み方といい悪くない。まさに『投げ暗器』の素質を秘めているな」
石を軽く上に放り投げ、キャッチする。
手のひらに伝わる重量感を確認しながら、俺は近くにあった太い樹木に向き直った。
目標は、幹に生えている小さな赤いキノコ。距離はおよそ五メートル。
「フッ……我が影の刃からは逃れられん。秘技・礫打ち……ッ!」
右腕を素早く振り抜き、手首のスナップを利かせて小石を放った。
シュッ!
風を切る鋭い音。石は真っ直ぐな軌道を描いて飛び、狙い違わずキノコの真ん中を激しく撃ち抜いた。
パンッ!
衝撃でキノコは粉々に弾け飛び、樹皮に深い凹みが刻まれる。
「おおお……ッ! すごいぞ! 石ころなのに殺傷力が段違いだ!」
手裏剣術補正のおかげで、投擲の速度と威力が凄まじいことになっている。金属製の手裏剣でなくとも、これなら十分に凶器として機能するはずだ。
「よし、銘を授けよう。お前は今日から『影礫』だ」
ただの川原の石ころを格好いい名称で呼び直し、俺はジャージのポケットに詰めるだけ詰めた。重みでズボンがズリ落ちそうになるが、それすらも「暗器を大量に密輸している暗殺者」っぽくてテンションが上がる。
「これで遠距離攻撃の手段は確保した。ククク……待っていろよ魔物ども。四十路の知恵と14歳の肉体が織りなす極限の忍術、たっぷり拝ませてやる……!」
ポケットをジャラジャラと鳴らしながら、俺は不敵な笑みを浮かべて森林の奥へと足を進めた。




