2話 レベル1の生存戦略と、頼りない気配消し
「よし……腹をくくるか」
手に取った木の枝を両手で強く握りしめ、俺は目の前に広がる原生林を凝視した。
14歳に若返った肉体は羽のように軽く、長年の社畜生活で痛めていた足腰の重みはどこにもない。だが、浮かれている場合ではなかった。
頭上に浮かぶステータス画面を改めて注視する。
【名前】マサル(14)
【職業】忍者
【LV】1
【HP】30/30
【MP】20/20
【スキル】息潜め(微弱)
間違いなく危険な異世界だ。ファンタジー小説の定番に従うなら、この鬱蒼とした森にはゴブリンや凶暴な野獣がうごめいているはず。レベル1の丸腰おじさん——いや、14歳少年がまともに正面突破を試みれば、数秒で肉塊へと変えられてしまうだろう。
「俺にある唯一の武器は……これだけか」
思考を集中し、意識をスキル欄へと向ける。
【息潜め(微弱)】を発動させると、自身の体表を薄い皮膜のようなものが覆い、気配がうっすらと周囲に溶け込む感触があった。
「……うん、頼りない。頼りなさすぎるぞ」
気休め程度に薄くなった気配。どれだけ集中しようと「微弱」は「微弱」であり、劇的な隠蔽効果など期待できるはずもない。試しにそっと小走りで移動してみたが、足元の枯れ葉を踏む音までは消えてくれなかった。
サクサク……と情けない音が静かな森に響く。
「忍者の基本は隠密と奇襲……。正々堂々と戦うなんて美学は、もっとレベルを上げてからだ。まずは安全に狩れる獲物を探す!」
俺は身を低くし、木の幹から幹へと影を踏むように慎重に進み始めた。
頭の中で「自分は闇に生きる影」と激しく自己暗示をかけながら、息を殺して周囲を探る。
すると十数分後。見上げるほど巨大な大木の根元に、何かが蠢く気配を察知した。
身を隠しながら覗き込むと、そこにいたのは一匹の小動物だった。
体長三十センチほど。ウサギのような姿をしているが、額からは一本の鋭い角が生えている。
(角付きウサギ……! 王道中の王道モンスターじゃないか!)
微弱なスキル性能に不安を覚えつつも、俺は風下へと回り込み、ウサギの視界に入らない角度を慎重に保った。
幸いにもウサギは周囲の警戒を怠り、地面に生えた蛍光色の苔を夢中で食んでいる。こちらにはまったく気づいていない。
「フッ……甘いな。背後を取られた時点で、貴様の敗北は確定している……!」
心の中で厨二病全開の決め台詞を呟きつつ、俺は握りしめた木の枝をぐっと構えた。
じりじりと、音を立てないように距離を詰める。
三メートル、二メートル、一メートル——。
「極意……頭脳一撃っ!!」
俺は跳び起きると同時に、渾身の力で木の枝を角ウサギの頭上へ振り下ろした。
ドカッ!
「グキュッ!?」
鈍い打撃音とともに、角ウサギは痙攣してそのまま動きを止めた。
拍子抜けするほどあっけない決着。息を呑みながら倒れたウサギを見つめていると、視界の端で青い光が眩しく弾けた。
【経験値を獲得しました】
【レベルが 2 に上がりました】
【スキル:息潜め(微弱)が 息潜め(初級) に成長しました】
【新たなスキル:手裏剣術(初級) を獲得しました】
「やった……レベルアップだ!」
湧き上がる達成感と歓喜。
一歩間違えれば死という緊張感を乗り越え、俺は確かに異世界の忍者として覚醒の一歩を踏み出したのだ。
「レベル2……そして『手裏剣術』か。ククク……面白くなってきたじゃないか」
俺は倒したウサギを拾い上げ、さらなる強さを求めて森の深奥へと視線を向けた。




