【Side:グレイブ】大魔女の依頼2
アスカは咥内に残った脂を流そうと真水の入った把筒杯を傾けようとして・・・止める。
「・・・そういえば貴方に今回の依頼についての話をしていませんでしたね。」
「今 思い出したのか・・・。」
そういう話をしようと呼ばれたはずなのだが、どうやら手に入った新鮮な肉に意識を持って行かれていたらしい。
おかげで この数時間、アスカが肉の下処理をする手伝いをする事になった。
もっとも、美味しい厚肉にありつけたので文句はないが。
「まぁ、難しい話じゃなかったですよ。
あの遺跡の奥にあるっていう、彼女の同胞の遺物を取ってくれば良いそうです。」
「ふむ・・・それだけなら確かに簡単に思えるね。」
「いや・・・それが そうでもないんですよ。」
アスカは そう言うと、古ぼけた羊皮紙の巻物を背嚢から取り出した。
それを無造作にグレイブに投げ渡す。
「見てみて下さい。」
「分かった。」
グレイブは古い遺物を扱う時のように慎重に巻物を開いた。
そこには上から下へと延びる、広大な都市の図が描かれていた。
「見たことのない図面だね・・・絵の縮尺が正確なら奥行きだけでも5弓(約500m)はありそうだ。 で、これは どこの地図なのかな?」
「・・・。」
アスカは無言で岩の大天幕の外を指差した。
もう暗くて見えないが、確か あちらの方角には件の古代遺跡があったはずだ。
「・・・まさか、これは あの遺跡内部の地図なのか?」
「・・・そうらしいです。」
「・・・。」
グレイブは地図を見ながら思わず額を押さえた。
結構な時間を失われた歴史の探究に費やしてきたグレイブだが、ここまで広大な地下遺跡は見たことも無かった。
この地図が正確なら、深さだけでも直線距離で5弓(約500m)、横幅に至っては1里(約1km)を超えそうだった。
それも手元の簡単な地図からも分かる通り、相当に入り組んでいる。
「これは・・・遺跡なんて言葉だけでは言い表せないかもしれないね。
この広さ、この深さ、この複雑さ・・・正に『迷宮』と呼ぶに相応しい。」
「ホントですよ・・・。」
それを踏まえると「遺跡の奥にある遺物を取ってきて欲しい」は かなりの難題に思えた。
少なくとも、グレイブ一人であったなら断っていた案件だ。
・・・とはいえ、今は不可能ではない。
「・・・それで、この依頼の報酬は?」
かつて一人であった頃は聞きもしなかったことだった。
一人だった頃は遺跡と、自分の備えさえあれば それで良かった。
しかし今は何人もの調査隊の命を預かる身。
隊員のモチベーションの為にも、仕事に対する報酬は聞いておきたかった。
「─── えっ、タダですよ?」
当たり前のことを言うようにアスカが答える。
「・・・うん?」
グレイブは思わず首を捻った。




