【Side:グレイブ】大魔女の依頼3
「タダとは・・・どういうことかな、アスカ。」
「・・・グレイブ、落ち着いて下さい。
私の言い方が悪かったですから、胸倉を掴んで持ち上げるのは止めましょう。」
【墓掘り学士】はアスカに言われてハッと手を離した。
アスカは地面に足が着くと、何事も無かったかのように襟元を整える。
グレイブに限った話ではないが、頭に血が上ると直ぐに手が出るのは冒険者の悪い癖だった。
「すまない・・・昔は こうも報酬に五月蠅くは無かったのだが。」
「別に構いませんよ。
それだけ指揮官としての自覚が出てきたということです。」
胸倉を掴んだことに対する謝罪は特にない。
そしてそれをアスカも当然のものとして受け止めていた。
少なくとも、胸倉を掴むくらいでは この業界では挨拶にもならない。
「先程は依頼料を無料と言いましたが・・・勿論これには理由があります。」
「ふむ。」
二人は何事も無かったかのように再び焚き火の傍に腰を下ろすと、そのまま食事を再開した。
アスカは把筒杯に入った真水を傾け、グレイブは木皿に乗った厚肉へとナイフを入れる。
「グレイブ、大魔女と呼ばれる存在達が例外なく千年近く生きていることは知っていますよね?」
「勿論だ。
彼女達の存在は非常に興味深い。」
グレイブの中では割と常識に近い話だった。
正確な出生年代までは特定できていないが、少なくとも古代帝国末期頃(700~800年前)には確実に存在していたことは過去の文献から分かっている。
闇の世界で法王の如き権勢を誇る彼女達に直接話を聞くのは難しいだろうが、それでも もし話を聞くことが出来たのなら遺跡や遺物がモノを語るように面白い話が聞けるだろうとも思っていた。
「今回 私達が接触したのは、【老猿の大魔女】というクソババアです。
意地クソが悪い上に若干ボケも入ってますが・・・まぁ多分 話は通じる方でしょう。」
「・・・どうやら彼女に散々辛酸を舐めさせられたみたいだね。」
アスカが ここまで子供のように人を悪し様に言うのは珍しかった。
それだけ かの大魔女とは精神的な相性が悪いのか、あるいは この短期間で悪し様に言い合えるようになるほど相性が良かったのか。
「・・・まぁ、そこら辺は別に重要ではないんですよ。
そんなことよりですね、私は あのババアが ここに居る間、私達が基本的に無料で依頼を受けるのと同じように、『無料』で講義ないし昔話をしてくれるように交渉してきました。
だからこそ、私達への依頼料は無料なワケです。」
「・・・なるほど。
依頼料と講義料の等価交換ということか。」
なるほど と言ったが、全然なるほど では無かった。
かの大魔女から直接 教えを請えるなど普通は大金を出しても叶うことではない。
それが実質無料で出来るなど、正直 遺跡の規模を考えても依頼料と全く釣り合っていなかった。
それだけアスカは大魔女と深い友誼を結ぶことが出来たのか、あるいは弱みでも握ったのか、それとも・・・ ───
「グレイブ、あのババアは多分かつての自分も良く覚えていない程 ボケが入ってます。
技術や知識は脳内で割と手近な引き出しに入っているようですが、昔話となると かなり取り出し難い部分でしょう。
どうか私に代わって根気強く その引き出しが何処にあるか探ってみてくれませんか?」
「─── 勿論。」
グレイブは一も二もなく了承した。
記憶の底を浚うくらい、当てもなく遺跡の中を彷徨うことに比べれば何と言うことはない。
そして何よりも、自身と同じように歴史の真実に飢えている目の前の同好の志の期待に、応えてやりたかった。




