【Side:グレイブ】大魔女の依頼1
最初に彼女と出会ったのは山の深い場所だった。
「すみません、道に迷ってしまって・・・。」
その時の彼女 ─── アスカは まだ外見こそ幼かったが、【墓掘り学士】の目には とても見た目通りの ただの迷子には見えなかった。
それこそ、初見では魔物の一種かと勘違いした程だ。
しかし、結局そうでは無かった。
「助かりました。
また、お会いしましょう。」
何日かの小さな冒険を経て一緒に山を下りたアスカが、かの有名な【|傷だらけの男<スカーズ>】の所の見習いだと知ったのは ずっと後のことだ。
冒険者として登録していないにも関わらず冒険者紛いのことをしている自分を、酷く疎んでいるだろう思っていた男だった。
しかし今にして思えば それは杞憂であった。
「ウチの見習いが、世話になった。」
とある城郭の酒場で再会したアスカに連れられて初めて会ったスカーズは、古強者に相応しい圧力を持ちながら人を惹き付ける引力も持った不思議な男だった。
少なくとも冒険者の利権がどうこう言うような、自身の思っていたような人物では無かった。
「アスカが、どうしても お前を迎え入れたいと言う。
だからお前さえ良ければ、私は歓迎しよう。」
冒険者というものに あまり興味は無かったが、アスカと この男の仲間達には興味があった。
─── だから、グレイブは冒険者の手を取った。
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「いいですか、ここからが良いところですからね。」
「ねぇ・・・アスカ。」
焚き火の上に火台を広げ、その上に鋳鉄の平鍋を乗せたアスカが あまりに真剣そうなので、グレイブは そこから先の言葉を言い出せなかった。
7~8織(約30秒)程して平鍋の上から香ばしい香りが漂ってくる。 [1]
「今!」
アスカは挟鉗で平鍋の上の肉を掴むと、そのまま素早く引っ繰り返した。
焦香反応によって褐変した表面が露わになる。
「よ~し、よしよし。」
「・・・。」
また8織ほどすると、アスカは平鍋を火台の上から退けた。
そして素早く焼き上がった肉を木皿へと移す。
「はい、おまちどお。」
「・・・まぁ、頂こうかな。」
折角 貰ったので、グレイブは木皿の上に横たわる厚肉へとナイフを突き立てた。
・・・。
香辛料の香り
肉の脂の旨味
しっかりと効いた塩の味
「・・・美味しい。
完璧な焼き加減だ。」
「ですよね。」
アスカはグレイブが厚肉を味わっている間に新しく自分用の肉を焼き上げ、それを自分の木皿へと移した。
そしてグレイブと同じように厚肉へとナイフを突き立て、一口で頬張れるサイズに刃を入れ、脂の滴る肉を口の中に入れて舌鼓を打つ。
正に自画自賛だが、それが許されるだけの腕だった。
「こうして未知の土地で心置きなく新鮮な肉を焼けるのも、件の大魔女との交渉の結果かな?」
「ん・・・そうなんですよ。」
口元を掌巾で軽く拭ったアスカは、一緒の焚き火を囲み始めて早数時間・・・ようやくグレイブが知りたかったことの一端を話し始めた。
[1] 織:
教会が公の文章での使用を認めていない、いわゆる闇の単位。
1織で約4秒を指し、公的に認められていない単位にも関わらず利便性が高い為に庶民間では平然と使われているが、教会は 公の文書に使われない限り これを黙認している。
伝承では大魔女がこれを広めたとされるが、もはや本人達にも真偽は定かではない。




