大魔女と耄忘
「─── ていうか、あの古代遺跡は『前人未踏の魔境』というワケでは無かったんですよね。」
不謹慎だとは思うが正直 見ず知らずの人間が亡くなったという話はどうでも良くて、私の中では そっちの方がショックだった。
恩師の一人の訃報を聞いた【歩く災害】程ではないにしろ、その関係で ここ最近は一気に気分が落ち込んでいた。
というのも冒険というのは誰も知らないような秘境を踏破してこそと私は思うからだ。
そこに浪漫を感じるからこそ、私は この決して安楽とはいえない職業を選んだのである。
それが・・・人の所有地って・・・。
「・・・いやぁ?
そうとも言い切れないと思うがねぇ。」
私が溜息をついていると、意外にも【老猿の大魔女】から そんな気遣うような言葉が飛び出してきた。
「あの埃を被った神殿は古代帝国末期辺りから誰も出入りしてないはずだよ。
つまり遺跡になった後は管理人の【老蜘蛛の大魔女】以外は足を踏み入れていないというワケさ。
それだけなら十分『前人未踏』だろう?」
「いや、【老蜘蛛の大魔女】っていう前人が足を踏み入れてるじゃないですか。」
「・・・面倒くさいねぇ。
アタシらの何処が人間に見えるってんだい。」
「それを自分で言うかい、猿婆・・・。」
確かに姿形だけなら到底人のソレではない大魔女は、気を遣って損したと言わんばかりに面倒くさそうな溜息をついた。
悪いとは思うが、管理人がいるなら それは魔境とも言えんのだよ。
だが今は それよりも気になることがあった。
「・・・っていうか、あの古代遺跡って神殿だったんですか?」
「うん? 誰がそんなことを言ったんだい?」
「猿婆、さっき自分で言ってたよ。」
「・・・はて?
アタシゃ言った覚えがないね。
多分、アンタらの聞き間違いだろう。」
「そこで自分の言い間違いっていう発想にはならないんですね・・・。」
ルインの話では千年近く生きているという話なので、もしかすると幾らかの真実を孕んだ言葉だったのかも知れないが、肝心の生き証人自体にボケが入り始めているので根気強く尋ね続けないと本当に聞きたいような話は聞けそうになかった。
・・・まぁ、そこら辺は今のところ この大魔女の従魔である亜人達の観察で忙しくしている【墓掘り学士】に任せるべきだろう。 [1]
私にそこまでの忍耐は期待できない。
「まぁ、そんなことは良いんだよ。
そんなことよりアンタ達にはね、あの遺跡の最深部にあるアラクニドの遺品を持ってきて欲しいのさ。」
自分でもボケてきていることに気が付いているのか、【老猿の大魔女】は数日前にも聞いた私達への依頼内容を改めて口にして、苛立たし気に話を逸らした。
[1] 従魔:
人に従うように調教された魔物などを指す。
魔物の調教は その攻撃性の高さから大よそ通常の生物よりも遥かに難しく、亜人は その最たるものの一つだが、【老猿の大魔女】は当然のように あらゆる種の亜人を従魔にしている。




