大魔女と大魔女の訃報
岩柱で形作られた大天幕のド真ん中を ちゃっかり陣取って配下の亜人達に布の小天幕(それにしたって直径20~30mはある)を張らせた【老猿の大魔女】は、小天幕の奥に玉座と言わんばかりに敷かれている絨毯の上に腰を下ろした。
・・・あの絨毯にも《時止めの秘術》が仕掛けられているのだろうか?
「よし、それじゃあ早速 詳しい仕事の話をしようじゃないか。」
「猿婆・・・その話は先日しただろう?」
「・・・そうだったかい?
全く年は取るもんじゃないねぇ・・・。
最近は ちょっと前のことも容易に思い出せなくなってきたよ。」
「大変なんですね。」
私は自分には関係ないと言わんばかりに団員に用意させたハーブ茶を呷る。
老獪な大魔女のことだから、ここで下手に同情を見せると具体的な『お情け』を強要されそうだったからだ。
そもそも今の一連の流れで見せた認知症の症状だって演技でやっているのかもしれない。
「ま、アンタらが覚えていようが覚えていまいが関係ない。
アタシが忘れてるんだから、それはノーカウントの事象というものさね。」
「「え~・・・。」」
私と【歩く災害】が同時に抗議の呻きを上げるが、大魔女は知ったこっちゃないと言わんばかりに話を始める。
「良いかいアンタ達。
ここから見たと思うけど あの古代遺跡は私の古い同胞が管理していたものでね。
それが先日くたばっちまったから仕方なくアタシが遺品整理に来てやったというワケだよ。」
「前も言いましたけど・・・要するに遺産泥棒ですよね?」
「バカ言うんじゃないよ。
そもそもアイツがちゃんと終活していればアタシが出向くまでも無かったんだ。
面倒臭い遺品整理を引き受けてやったんだから全く感謝して欲しいくらいさ。」
「・・・。」
数日前に聞いた話では、亡くなったのは【老蜘蛛の大魔女】という目の前の大猿の古くからの同胞らしい。
何でも大猿以上の体躯を持つ大蜘蛛だったらしいが、先日 教会直属である件の『聖堂騎士団』の手に掛かって討伐されてしまったようだ。
「それにしても、驚いたね。
まさか あの『蜘蛛婆』が死んじゃうなんて。
あの人には嫌な思い出しかないけど・・・まぁ、葬儀くらいは出てやっても良いかな。」
「大分 耄碌してたからねぇ・・・。
とはいえ腐っても同胞だし、遺産の額次第では葬式代くらいは出してやろうか。」
こんなことを言っているが数日前その訃報を聞いたとき、ルインは数日間ショックで寝込んだ。
そして立ち直った今、悪態をつきながらも真っ先に葬式の話が出る辺り大分慕われていた部類の大魔女だったようだ。
恐らく、故人のことを悪し様に好き勝手言うのが、彼女達 ─── 魔女なりの弔いというものなのだろう。




