大魔女。
<数日後・・・>
「─── 遅かったね。
てっきり途中で くたばったのかと思っていたよ。」
跳猿と殺し合った山岳地の先、乾き切った荒野の丘の上で【老猿の大魔女】は待っていた。
その視線の先には、岩山と一体化するような形で築かれた件の古代遺跡が見える。
紆余曲折あったが、私達は確かに目的地へと辿り着いたのだ。
「・・・私達は最短ルートで来たはずですが?」
「じゃあ見落としがあったんだね。
私の方が早かったよ。」
件の岩屋で仕事の話をした後、私達と大魔女は別々のルートで同一の目的地である古代遺跡を目指すことになった。
この時、どちらが早く着くかで依頼料を増減させる賭けをしたのだが、まんまと引っ掛かってしまったようだ。
賭けは私が負け、依頼料が事前に決めた割合だけ減った。
「そんなことよりだね、チビ助。
もう直ぐ日が沈むが特に準備をしなくて良いのかい?
アタシ達は野宿でもイケる口だが、アンタ達の多くは そうじゃないだろう?」
近くで従者のように控えていた亜人の何体かが「え?」みたいな鳴き声を上げたが、大魔女をそれを黙殺した。
私も聞かなかったことにした。
「誰がチビ助ですか、誰が。」
私は そう言いながら、団員から全長5メートルほどの槍旗を受け取った。
そして その穂近くの柄巻き部分を掴むと、穂先を下向きに槍旗を構える。
石突部分で蕾のように巻かれた旗が上に来た。
「えー・・・ここを野営地とします。」
私は槍旗を地面に突き刺した。
軽く刺しただけの私だが、槍旗の方はブルリと震えたかと思うと まるで生きているかのようにモゾモゾと自らを地面の奥深くへ刺し込み始める。
『旗樹』という生きた植物のような その槍旗は、穂が地面に突き刺さると穂先から根が伸びて自らを固定し始める【歩く災害】謹製の魔導具だ。 [1]
これによって私は大した労力を支払わずに、団長として野営地の中心部を示す旅団旗を立てることが出来る。
多少制作コストは嵩むが、その分ハンマーで穂先を地面に打ち込んだり張り綱を張らなくて済むのが利点だ。
十分に根を張り終えたのか、旗樹は葉っぱにあたる三角旗を広げる。
【傷だらけの男】から引き継いだ、黒い烏旗が風に はためいた。
暗くなってきた空と相まって、黒い旗の中心にいる白い烏が空で羽ばたいているように見える。
そして その旗が立ったことを確認した団員達が、ゾロゾロと荷馬車から自分の天幕を取り出しに掛かり始めた。
「へぇ、中々面白いアイテムだねぇ。
これは あの子の作品かい?」
「えぇ、そうですよ。
どうです、良い感じでしょう。」
大魔女は自分の教え子の作品を触ったり嗅いだりして確かめていたが、やがて満足したのか離れて棍のような例の杖に手を伸ばした。
「・・・これは私も見せてやる必要がありそうだね。」
大魔女は そう言うと、フンッという掛け声と共に杖の底を力強く地面へと叩き付けた。
すると地面がゴゴゴゴッという地鳴りと共に揺れ始める。
大魔女が握る杖の先にある、巨大な朱い宝玉も地上に堕ちた星と見紛わんばかりに輝き始めた。
「一体何をする気 ───」
私が大魔女に意図を尋ねようとした瞬間、轟音と共に大地から岩の柱が幾本も現れた。
その岩の柱は、まるで それぞれが意思を持っているかのように撚り合わさっていく。
やがて岩の柱達は、一つの巨大な岩の天幕を形作った。
「─── どうだい、これが年の功というものだよ。」
大魔女は杖を肩に担いで、老猿の仮面を付けていても その表情が分かるほど明確に胸を張って見せた。
[1] 魔導具:
アスカの前世においては絶対に成立しない現象を利用した道具。
おおよそ生物のように動き、機械工学では難しいような挙動を比較的容易にすることが出来る。
これの制作を得意とする【歩く災害】が某ねこ型ロボット扱いされる要因の一つ。




