大魔女と交渉
三千ゴルド・・・金貨にして3,000枚、日本円にして約30億円ほどの大金だ。
そんな額の慰謝料、とてもではないが払えない ─── ・・・ということもない。
実のところ、先代の【傷だらけの男】の頃から積み上げてきた信用を元手にすれば搔き集められなくもない額ではある。
大魔女も それが分かって言っているのだろう。
だが はっきり言って、目の前の一々腹が立つクソババア相手に そこまでの慰謝料を支払う価値を見出せなかった。
今すぐ殺してしまった方が早いように思える。
先ほどの死合で、力量はともかく単純な殺し合いなら私の方が強いことは分かっている。
【歩く災害】には悪いが、流石に三千ゴルドは死人が出る額だ。
・・・だが、そんなことはクソババアも分かっているはずだった。
「───・・・ふんむ、流石に聡いねぇ。」
私が大魔女の意図を探ろうと押し黙っていると、悪戯がバレた悪童のようにババアは老猿の仮面の頬を掻いた。
無造作に そこら辺に落ちていた小石を明後日の方向に投げて見せる。
ババアが腰を下ろしている絨毯が微かに光る
澄んだ音を立てて小石は空中で止まった
「《時止めの秘術》か・・・!」
ルインが滅多に見れないレベルで興奮しながら立ち上がり、駆け出す。
そしてまるで宙を舞う粉雪にはしゃぐ子供のように、空中で止まった小石を触って楽しみ始めた。
・・・ルイン、大事なのは そこじゃないだろ。
「その通りさ。
これは仕込みが面倒な割に効果が地味な古い魔術でねぇ・・・。
支出に見合わないんで滅多に使わないんだけど・・・なんで引っ掛からなかったんだい?」
「いや・・・そんな『つまんねぇ奴』みたいに言われましても。」
・・・あっぶねぇ。
一歩間違えたら、空中に縫い付けられてたのは私だっただろう。
そうなったら、もっと慰謝料を吹っ掛けられていたに違いない。
「はぁ・・・なんか、もう・・・萎えたね。
分かったよ。
遊びは ここまでにして、ここからは対等な交渉といこうじゃないか。」
ババアは そういうと、わざとらしく片腕に巻いていた包帯を解いた。
その包帯の裏面には呪詛がビッシリと書き込まれており、それを傷口から離した途端、傷口は黒ずんだ血の泡を吹き出して一瞬の内に完治した。
・・・どうやら最初から包帯も軟膏も、水薬すらも必要なかったらしい。
「出会い頭で急に魔術をブッ放しておいて何だけど、アンタの実力を見込んで仕事を頼みたくてねぇ。」
「・・・なんで最初から その一言が出てこなかったんですか?」
只のイジワル婆だと思っていた化け物の口から急に真面な言葉が出てきたことにビックリした私は、思わず何の捻りもない素朴なツッコミを入れてしまった。




