老猿と誠意
「─── と、いうわけでだね。
アスカ、この得体の知れない化け物が私の師の一人、【老猿の大魔女】だ。
猿婆、この小さいのが件のアスカだよ。」
「誰が化け物だって?」 「誰が小さいのですって?」
先程まで跳猿と殺し合いをしていた山岳地から程近い岩屋で、私と【歩く災害】、そして ついさっき私が殺しかけた巨猿が向かい合っていた。
皺だらけの老猿の仮面と鍔広の魔女帽を身に付けた その獣は、岩屋の脇に棍のような形をした杖を置いて話し合いに応じる姿勢を見せていた。
どうやら見た目からは想像もつかないほど理知的なようだ。
私はルインを軽く小突いてから目の前の大魔女に頭を下げた。
「・・・どうも、紹介に与りましたアスカです。
先代の【傷だらけの男】の後を継いで冒険者をやっている者です。」
「あぁ・・・あの男の後継かい。
どうりで しみったれた匂いを纏わり付かせているワケだ。」
「─── え、死にたい?」
私が反射的に腰に佩いた愛剣を抜くと、ルインが慌てて間に入った。
「アスカ、アスカ! 今のは魔女の界隈じゃ挨拶みたいなものでね ───」
『こんにちは! 死ぬには良い日ですね!』(意訳:さっさと死ね。)
「いやっ、魔王国語のスラング的な『挨拶』ではなくて・・・。」
「五月蝿い小娘共だねぇ・・・。
話したいことがあるなら さっさと口に出したらどうだい?」
「─── 猿婆っ!」
『─── 血の色を教えて貰っても!?』(意訳:ぶっ殺してやる。)
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
<十数分後 ───>
「ヒッヒッヒッ・・・若人を揶揄うのは どうして こうも愉しいのだろうねぇ・・・。」
「勘弁してよ、猿婆・・・。」
普段の格式ばった口調から幾らか砕けた口調になったルインを横目に見つつ、私は目の前に出された皿に盛り付けられた料理に手を伸ばす。
口に入れた瞬間 解けるようにして旨味が広がる骨付き肉のステーキに、心地よい歯触りを脳に響かせる軽く塩の振られたサボテンのサラダ・・・その他にも この土地 特有の食材を使った様々な料理が私の前に運ばれていた。
これは一頻り私をキレさせて遊んだ大魔女が詫び代わりに配下の亜人達に運ばせた料理であり、何でも彼女自身が腕によりをかけて仕込んだものらしい。
普段は賓客にしか出さないようだが・・・恐らくこれが大魔女なりの私への誠意というものなのだろう。
─── 断じて、大人が子供の機嫌をとるのに お菓子を与えるのと同じ理屈ではないと思いたい。




