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予期せぬ遭遇

───── タァンッ、タァンッッ


軽快な音を立てて黒鹿馬(グリムヴェイル)が凹凸の激しい岩場を疾駆する。

その動きは切り立った崖を駆け上がる山羊のようであり、険しい山の急斜面を駆け降りる鹿のようでもあった。


「SKRAAAAAA!!」


それに合わせて私は太腿に力を込めて姿勢を横に倒し、剣槍(イクルワ)の柄を両手掴んで薙ぎ払った。

本来のイクルワは刺突に特化している傾向があるが、私の剣槍は より斬撃にも使えるように穂先を幅広の直剣のように改良してあった。

それにより、黒鹿馬の杖足から逃げ切ることの出来なかった跳猿(イワトビ)の何体かが、その一撃の餌食となった。


胴と泣き別れした頭と、真っ二つになった胴が転がる。


(─── まず3。)


私は身体を捻って重心を黒鹿馬の真上に直すと、軽く呼吸を整える。


「WROOOAAAH!!」




  背後から迫る跳猿


  衝撃、そして血飛沫




「・・・もう少し静かに奇襲できないんですか?」


剣槍の石突で頭部を砕いた跳猿が地べたに落ちるのを、私は振り返りもせずに音だけで確認した。

ここで駿猿(アラハシリ)みたいに静かに仕掛けられたら多少焦ったかもしれないが、前もって威嚇音を出されながらだと奇襲されることが分かって残念さが勝つ。

生態の問題なのだろうが、こういった部分を踏まえると対人なら駿猿の方が危険か。




  剣槍を背の鞘に仕舞う


  短弓(ショートボウ)を取り出す


  短弓に矢を番える


  放つ




「SKEEEAAH!?」


岩山の上から投石を図っていた跳猿が心臓に矢を受けて転落する。

その途中で何体かの岩肌を登っていた跳猿を巻き込んだ。


(─── 8つ。

これなら早めに終わりそうですね・・・。)


個人的に数ある魔物の中でも亜人系が一番厄介だと思っているので油断はしないが、それでも跳猿が亜人の中でも比較的小型で臆病ということもあり、このまま追い立てていけば少なくとも馬車隊(キャラバン)の通り道は確保できそうだった。


・・・そう、思っていたのだが。




「─── ・・・?」


「─── ・・・はい?」




不意に岩山の影から、2階建ての家くらいの巨大な猿がヌッと顔を出してきた。

別に【傷だらけの男(スカーズ)】の下で見習いとして魔境調査に従事してきた経験からすれば、そのサイズの魔物というのは珍しくもないのだが、その巨猿は雰囲気が異様だった。


まるで岩を彫り抜いて造られたかのような灰色の獣毛に灰色の肌。

しかしそれが造り物ではないことを証明するかのように獣毛は風によって棚引き、その紅い瞳は爛々と輝いていた。

しかし何より異様なのは、獣のでありながら まるで自らが人間であると証明するかのように皺くちゃの猿の仮面と、ルインの物とはまた違う(つば)広の魔女帽を被っている事だった。




  巨猿が指先を此方(こちら)へと向ける


  指先で輝く指輪


  黒鹿馬の腹を拍車で押す


  反射的に急加速する黒鹿馬、私は姿勢を低くする


  閃光


  直ぐ後ろを死が通った気配がした


  矢を番える、放つ


  しかし巨猿に届く前に、まるで見えない暴風の壁があるかのように明後日の方向へと吹き飛ばされる


  巨猿へと迫る黒鹿馬


  巨猿は岩陰から、まるで巨木のような棍を取り出した [1]


  急激な加速を持って薙ぎ払われる棍


  跳んで躱す黒鹿馬


  私は その間に短弓を仕舞い、背の鞘から再び剣槍を抜き放った


  鞍の上に立ち、巨猿へと向かって跳躍する


  剣槍の穂先が巨猿の頭部へと吸い込まれていく


  巨猿は それを片腕を犠牲にして受け止めた


  しかし私は その反動で(たて)となった片腕の向こう側へと更に跳躍すると、そのまま巨猿の頭を掴んで その首筋に取り付いた


  腰に佩いた愛剣 ─── 黒い短剣を抜く


  そして その刃は確実に巨猿の命を ───




「《短縮詠唱:魔術の閃光(M.F.)》!!」




「─── !?」


「─── ・・・。」


刃が届く前に聞こえた呪文により、私は対閃光防御を取らざるを得なくなった。

巨猿の首筋から跳んで離れると、空中で身体を丸めて 閃光から背を向け、目を強く閉じ 耳を塞ぎ 口を開く。

衝撃と閃光の後、訓練された動きにより私は黒鹿馬の鞍上に着地した。

対閃光防御を取ったとはいえ、軽い耳鳴りと白く霞んだ視界、身体のふらつきに心臓の脈拍の乱れを覚えた。


「─── 何するんですか、ルイン!」


私は魔術を行使した犯人に声を荒げる。

魔術の閃光(マジック・フラッシュ)》は私の前世の知識が入った魔術なので使い手は限られる。

そして心当たりは【歩く災害(ルイン・ウォーカー)】しかいなかった。


「─── ・・・ごめん!!」


あんまりな不意打ちに問い詰めようと思った私だったが、本当にルインなのかと疑いたくなるレベルの真摯な謝罪が飛んできて言葉に詰まった。


「・・・まぁ、分かれば ───」


「─── ごめん、猿婆(さるばあ)

猿婆の私兵、沢山 殺しちゃった!!」


「・・・。」


どうやら私が殺しかけた巨猿はルインと親しい間柄で、そして私に《魔術の閃光》を放ったことに対する謝罪がないことが分かると、私は黒鹿馬と一緒にルインに駆け寄って強めの腹パンを食らわせた。

[1] 棍:

中国武術で使われる棒状武器。

一般的に長さは180cm程度とされるが、今回の場合は10m前後。

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