大魔女とルイン
─── 大魔女。
それは嘘か真か千年も前から生き続けているという怪物達の総称であり、修めれば『魔女』と呼ばれるような異端の学派の創始者達でもある。
強大な魔法使いであり熟達した魔術師でもある彼女達は、神の威光も届かぬ裏社会で法王の如き権威を持つという。
「─── そんな彼女達の内の一人の所有物を、我々はブッ壊したというワケさ!」
亜人・・・駿猿の死骸の処分を終え、夜に焚き火の周りに集まった私達の前で【歩く災害】が若干ヤケクソ気味に言った。
その表情からは普段であれば無駄に蓄えられた余裕というものが一切感じられない。
良く分からないが、それだけ切羽詰まった問題のようだ。
「・・・よく分からないので教会での役職に例えて頂けます?」
「・・・うん!
君が こちらの事情に全く興味を持てないのは良く分かったとも。」
そんな状態のルインを面倒臭そう目で見ながら【イカレ修道女】が尋ねる。
その問いはいわゆる、「その話題、このアニメに例えて言ってみてくれない?」みたいな本当に興味のない話題に何とか興味を持とうとしている時に使う手法だった。
つまりシスターにも話は聞く気がある。
・・・だから頑張るんだルイン。
「教会で言えばそうだね・・・。
普通に法王か異端宗派の総主教とか、修道会の総長とかになってくるんじゃないかい?」
「・・・とても貴方の口から出た議題とは思えないほど重要な案件ではないですか。
どうします、アスカ?」
「そうですねぇ・・・。」
私は頤に手を当てて考える。
そして、そういえばルインとは それなりに長い付き合いだが、その背景については深く詮索してこなかったことに思い至った。
興味が無かったとも言う。
「・・・そういえばルイン。
そんなに大魔女に詳しいのは どうしてなんです? ファン?」
「・・・えっと。」
ルインは気まずそうに頬を掻いた。
その顔には明確に「言いたくない」と書いてあったが、事が事なので私は続きを促す。
「その・・・同業者というか・・・私のスポンサーというか・・・───」
「─── よし、解散! 皆、解散です!!」
私がパンパンッと手を叩いて促すと、ルインの話を聞きに集まっていた団員が ぞろぞろと散り始める。
団員達は それぞれ自分の仕事に戻るなり、自身のテントに潜り込んで就寝するなりした。
「ちょ、ちょっと どうして勝手に解散させてしまうんだい!」
「うるさいですね!
どうせ口ぶりからして親しい間柄なんでしょう!?」
「そんなことは無いよ!
ちょっと蔵書を借して貰ったり、研究に対して予算援助を貰ったりする程度さ!」
「親しいどころか恩師まであるじゃないですか!
そこまでの間柄なら貴方が謝れば済む話だとは思わないんですか!?」
「嫌だ!
あのクソババア共に頭を下げたくない!
私の代わりに謝ってきてくれよ、アスカ!!」
「いやっ、見ず知らずの私が謝りに行ったら賠償金とかの話になるでしょう!?
貴方の ちっぽけなプライドがズタズタになることで守られる予算があるんですよ!!」
「そんなっ!?
私達、友達だろう!!?」
「友達だからこそ貴方のプライドなんて安いものだって良く分かってるんですよ!!!」
私とルインの醜い言い争いは、野営の見回りシフトを終えた【動く要塞】が騒ぎを聞きつけて仲裁に来るまで続いた。




