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ヤバい奴。

<Side:とある駿猿(アラハシリ)


「───── ! ───── !」


群れのボスに従って、この後 罠の中へとノコノコやってくるであろう獲物共を待ち構えていた とある駿猿は、不意に隣の持ち場から異音が聞こえることに気が付いた。

それなりに群れの中での地位が高い その駿猿が率いているグループとは別のグループの持ち場であったが、生来の臆病さも手伝って様子を窺ってみることにした。




───── そこには、地獄が広がっていた。




「ハハッ、どうした亜人(ゴミ)共!

怖じ気づいて得物も構えられないのかぁ!?」


自分達より二回り以上も大きい巨大な獣が、無手で仲間をグチャグチャに蹂躙(じゅうりん)していた。

ある者は拳で頭部を砕かれ、ある者は蹴りで下半身を文字通り吹き飛ばされる。


そんな光景に隣の持ち場グループに属する駿猿達は完全に腰が引けてしまっていた。

恐怖で思考がマヒし、得物を構えるどころか逃げることすら頭から抜けてしまっている。


そんな群れの仲間が順番に屠殺(とさつ)されていっているような地獄絵図を目撃してしまった その駿猿は、あまりの恐怖に叫び声を上げそうになってしまったがグッと我慢した。

ここで叫び声を上げても他の持ち場とは距離があるので気付いて貰えるかは怪しい。

”仲間を呼ぶ”は最終手段だ。


その駿猿は冷静に自分のグループの仲間を集めると、亜人独自の簡潔な言語で とにかくヤバいのが隣にいることを伝えつつ、奇襲をする為に皆で傾斜の上へと登った。


岩陰に隠れる。


「・・・あ?

なんだ こっちには居ないのか。」


血塗れの手を狼のような顔で拭った獣が、自分達のグループが待ち構えるエリアに入ってきた。

仲間に投げ槍を構えさせる。


「どこだ~? ニオイはするんだけどなぁ~?」


あと少し・・・あと少しで確実に仕留められる位置に獣がやってくる。

あと二歩・・・一歩 ───


「─── なんてな。」


突然、獣が こちらを向いた。

バレていたことを悟った その駿猿は、恐怖で反射的に投げ槍の投擲(とうてき)の合図をする。

投げ槍の弾幕が獣に向かって殺到するが、その一本も獣に命中することは無かった。

乾いた音を立てて、投げ槍が地面に突き刺さる。




  衝撃。


  鈍い音。


  生温かい感触。


  血の臭い。




次の瞬間には、自分のグループの駿猿の何体かが獣にバラバラにされていた。

もはや何体だったかは、身体がバラバラになり過ぎていて判断がつかない。


その駿猿は運良く獣の初撃から逃れることが出来た。

しかし衝撃で、近くの岩の隙間に吹き飛ぶ。

少しして『仲間だったもの』が その駿猿の上に降り注いだ。


「あ”~・・・?

なんだ、少しはやるかと思ったが この程度か。

つまらん。」


獣は死骸の下敷きになっていた その駿猿に気が付くことなく先に進んだ。

恐怖で全身が震える その駿猿だったが、仲間の仇を討つ為に息を潜めて機会を窺うことにした。


────────────────────


<Side:【拳獣(ルガー)】>


亜人共を殲滅(せんめつ)するという仕事は、想定していたより遥かに簡単に終わってしまった。

こんな連中に一度 土を舐めさせられ、姉貴分にあたる【イカレ修道女ルナティック・シスター】に一発殴られたのかと思うとルガーは(はらわた)が煮えくり返る思いだった。


獣人特有の獣毛によって何も着込んでいない状態の平原人(オルディア)より遥かに高い防御力を持つルガーだが、シスターの拳は普通に痛いのである。

無手の格闘を中心とした武術を修めているルガーだが、あれ以上に痛い拳を未だに知らない。


姉貴分としてシスターを慕っているルガーだが、同時にシスターを恐ろしいとも思う。




「─── すみません、少し待ちました?」




不意に逢引(デート)の挨拶のノリで声を掛けられ、ルガーはハッと声のした方を振り向いた。

そこにはシスター以上にルガーが恐ろしいと思う人 ─── アスカが立っていた。


平原人の女性もイケる口であるルガーだが、幾ら何でも この人とデートするくらいなら貧民街(スラム)にいるような二束三文で誘える低級娼婦と遊んだほうがマシだろう。


─── 誰が好き好んで、悪神に魅入られたかのような怪人とデートしたいというのか。


「・・・まぁ、少しだけな。」


結局、絞り出せたのは そんな当たり障りのない言葉だけだった。

アスカの吸い込まれるような青い瞳に見つめられると、全てを見透かされるような気持ちになる。


アスカのことを旅団の長として慕っているルガーだったが、同時に姉貴分にあたるシスター以上に逆らってはいけない相手でもあると認識していた。


「そうですか、それは良かった。

ルガーは強いですからね。

競争相手が私では不足ではないかと心配していたんです。」


全く そうは思っていなさそうな清々しい顔でアスカが言う。

ルガーは(そんなワケあるか。)と思った。


─── この怪人、本気で殺し合うなら自身より遥かに強い。


確かに試合形式のルールに則った戦いならルガーはアスカに勝ち切る自身がある。

しかし盤外戦術アリのルール無用の殺し合いになった途端、アスカは絶対に勝てない怪物に変わる。


その点でいえば、今回は競争形式だったが故にアスカにとって不利な勝負だったともいえる。


「・・・まぁいいか。

そんなことより俺が勝った以上、酒くれ酒。

どうせ長は呑めないだろう?」


「あー、はいはい。

後で好きなの選ばせてあげます ───」


言い切る前に、アスカはルガーでも反応が難しいような速度で 腰に佩いた大型の黒い短剣を抜き放つと、その勢いのままにルガーの後頭部に迫っていた作りの粗い矢を叩き落した。


─── それは、ルガーが取り逃した駿猿の放った矢だった。


一発目が外れたとみた その駿猿は、二発目の矢を弓に番え始める。


「・・・ルガー?」


「・・・。」


ルガーはアスカから目を逸らした。

気まずくて、とてもではないが目を合わせることが出来なかった。


「・・・ルガー、GO!」


「・・・ワンッ!」


勝負の結果は覆り、アスカの勝ちとなった。

それによってルガーは(しばら)くアスカに絶対服従となったが、その方が気は楽だった。

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