バカも使いよう。
グリムヴェイルを走らせて少しすると、確かに大規模な罠が見えてきた。
それは馬車隊の通り道の先にある、渓谷のような傾斜に囲まれた場所で、そこにビッシリと駿猿が待ち伏せしているのが見える。
・・・というのも何故か傾斜の一番高い所で棒立ちしていた、やけに がたいの良い駿猿を後ろからステルスキルしたので、私達からは完全に地に伏せて隠れている亜人共が丸見えになっていたのだ。
グリムヴェイルは少し離れた場所に置いてきた。
・・・それにしても、なんでコイツこんな良い場所で棒立ちしてたんだろ?
「長・・・恐らくコイツは群れのボス ───」
「えっ? なんて??」
「・・・何でもない。」
連れてきた【拳獣】が何か言ったが、丁度 強風が吹いて聞き取れなかった。
まぁ繰り返さないってことは大事なことでもないんだろう。
「そんなことより、ルガー・・・私達は奴らから見て完全に盲点な場所に陣取っているんです。
・・・この意味が分かりますか?」
「・・・一方的に連中を嬲り殺しに出来る?」
「その通り!」
私は傾斜の岩陰に隠れながらルガーにサムズアップを送った。 [1]
厳密には違うが、概ね間違ってはいない。
「そういうワケで、このままいくと普通に奴らを全滅させれられるので つまらないワケです。
・・・貴方も そう思いますよね?」
「まぁな。」
ルガーが頷く。
私は(そんなワケねぇだろ)と思うが、口には出さない。
ここからがコイツを上手く動かす肝なのだ。
「なら、私と競争しましょう。
丁度 駿猿の陣地は向かい側を含めて2箇所あるわけです。
私達も二人・・・つまり都合が良いと思いませんか?」
「確かに?」
ルガーが興奮気味にコクコクと頷く。
よしよし、引っ掛かったなバカめが。
「じゃ、私が こっち側の傾斜を片付けますから。
貴方は あっち側の傾斜を片付けてきて下さい。」
「あ?
それだと長の方が有利 ───」
「ハンデですよ、ハンデ。
貴方の方が体力あるんですから少しくらい良いじゃないですか。」
「・・・そうか?」
「えっ、そうでしょう?」
流石の私でも獣人の男よりは体力ないと思うんだが?
何のために体力テストの評価基準に男女差があると思ってんだよ。
あれ、獣人だったらホモサピエンスの男より多分一段階か二段階くらい厳しめの評価基準になるぞ。
「・・・まぁ、長が そう思っているなら それで良いが。」
よく分からんが納得してくれたらしい。
今の内に畳み掛けてしまおう。
「私が勝ったら暫く絶対服従、貴方が勝ったら私が死蔵している酒の中から好きな物を・・・それで良いですか?」
「─── よしっ、受けて立つ!」
─── よしっ、酒好きのバカが釣り針に掛かった!
ここまでして ようやく、ルガーは十全のスペックを発揮して駿猿の群れを全滅させてくれるだろう。
駿猿の群れを相手取る戦いよりも面倒な戦いを終えた私は、漫画のように額の汗を拭って一息ついた。
[1] サムズアップ(thumbs up):
英語で親指を上に向ける・・・という意味。
動作としてはグットサイン、親指を立てるジェスチャー。
賛成、または称賛の意を表す。




