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概ねポンコツな弟に手を焼かされる姉。

「─── ちょっと良いかな?」


件の古代遺跡もといゴブリンの話をしていた私の背後から、不意に聞き覚えのある声が聞こえた。

丁度 野営の見回り当番の時間帯だった【墓掘り学士(グレイブ・ディガー)】の声だ。


「ん? グレイブですか。

亜人の掃討は終わりました?」


振り返ると、案の定 冒険者としての装備を身に付けたグレイブが立っていた。

甲冑を着込んだグレイブは、普段の学者然とした格好とは打って変わって兇戦士か何かに見える。

恐らく掘削ツールとしても使える得物である大型のウォーピックの無骨でありながら禍々しい外観と、グレイブの綺麗な長い黒髪が生えるようにデザインした鎧の見た目が悪さをしているのだろう。

まぁ、個人的にカッコイイと思うので変えるつもりもないが。


「うん・・・まぁ、終わったといえば終わったんだけどね・・・。」


グレイブは鎧を着こんだまま気まずそうにポリポリと頬を掻く。

その様子から、何か重大な損害が発生したワケではないことは分かった。

そういうことが起こったのなら、グレイブは もっと真剣な雰囲気を出す。

今の様子は どちらかというと、誰かの尻拭いをしている時にグレイブが醸し出す雰囲気に似ている。


・・・まぁ、答えはグレイブの肩にずっと見えているが。


「・・・取り敢えず、【拳獣(ルガー)】を こちらに寝かせましょうか。」


「・・・うん。」


グレイブは肩に担いできた気絶したルガーを焚き火の近くに寝かせた。

パッと見、生傷こそ多く作っているが、命に別状はないように見える。


「・・・どうやったら亜人相手に遅れをとれるのですか。」


そこに、ルガーといえど流石に亜人相手に遅れはとらないだろうと踏んでいた【イカレ修道女ルナティック・シスター】が やってきた。

その表情には、心配というよりも呆れがあるように見える。


「はぁ・・・。」


シスターはルガーの横に腰を下ろすと、その身体に両手を添えた


《此の身は塵にして、主の御手によりて形を得たり。

血は流れ、骨は折れど、なおも御業の内に在り。


願わくは、御慈悲の光よ、この器を満たせ。

裂けし肉を繋ぎ、砕けし骨を正し、命の巡りを本来の道へと還したまえ。


我は乞う、奪わず、歪めず、ただ正しきを求む。

与えられし命を、あるべき姿へ戻すのみ。


故に今、彼の内に宿りし灯よ、再び燃えよ。

主の名のもとに、癒えよ ─── 癒えよ ─── 癒えよ。》


シスターが『回復』の奇蹟の祝詞を完全フル詠唱で唱えると、その両手から直視に絶えないほどの眩い光が溢れ始める。 [1]

少しして光が収まると、そこには傷一つない穏やかな寝息を立てるルガーがいた。


「全く、相変わらず面倒な・・・。」


シスターは奇蹟による治療を終えると立ち上がり、先程まで光に溢れていた両手を面倒臭そうにパンパンッと鳴らす。


─── これこそがルガーがシスターに全く頭が上がらない理由そのものであった。

[1] 完全フル詠唱:

 魔術・奇蹟問わず、短縮詠唱よりも威力が向上する。

しかし元々そういう風に鍵言トリガーを組んでいる魔術とは違い、奇蹟には特に その傾向が強く、完全詠唱に当たる聖書の一節全文ともなると、人の身で再現できる神の御業の限界に当たる。

 そしてそれ以上の力を求める者は、往々にして人としての道を誤っている。

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