おおよそ横暴な姉に こき使われる弟
「─── 『亜人』ですか。」
「『亜人』ですね。」
私が掴み取った原始的な矢を覗き込みながら【イカレ修道女】が同意する。
切羽詰まった盗賊でも もうちょっと良い矢を使ってそうな こんな粗末な矢を使っているのは『亜人』以外 思いつかなかった。
この世界で『亜人』と呼ばれる種族は、私の前世でいう”猿”に近い。
ただ猿よりも人間に近く、弓矢を筆頭にした それなりに高度な道具だって使うし、独自の簡単な言語だって操る。
ただ、生態も姿形も完全に猿で、おおよそ人間に成り損なった『亜人』としか形容のしようがない存在だった。
さてそんな亜人だが、つまるところ人類に準ずる知性を持つ獣というワケで、場合によっては平原人を超える巨体を持つ彼らが危険でないはずはない。
この世界の人間でも勘違いしている者は多いが、決してRPGの序盤に出てくるようなザコモンスターではないのだ。
むしろ中盤あたりに出てくる、油断するとあっという間に全滅する鬼畜モンスターの類いだろう。
「どうします、アスカ?」
「どうするって・・・。
はぁ・・・駆除する他ないでしょう。」
つまり何が言いたいかというと・・・ ─── 対処が面倒くせぇ!
せめてエロ同人に出てくるゴブリンみたいにエロい生態してたら気分も盛り上がったのに!
この世界 私の知る限り、男も女も平等に食い殺すタイプの亜人しかいねぇんだもんなぁ!
はぁ、でも早急に手を打たないとシャレにならない被害出るし・・・。
「・・・【拳獣】。」
たった今 討論会を始めようとしていた私が そうして亜人への対処に悩んでいるのを見て取ったのか、シスターは同じ焚き火に当たりながらグリムヴェイルと同じように爆睡をキメていた一人の男を蹴り起こした。
「・・・何だ義姉者?」
焚き火の影から、ノソノソと黒い毛玉が起き上がる。
ツヤのある黒い獣毛に尖った耳、平原人のそれではありえない狼のような頭部。
手先の爪は猫のソレのように鋭く、獣毛こそ生え揃っているものの掌は確かに人の形。
尾骨の辺りからは概ね他の人類には見られない、獣人特有のフサフサの尻尾が生えていた。
─── その男は北の針葉樹林地帯に住むという獣人の一種、『狼人』であった。
急に叩き起こされたことによる機嫌の悪さを表すように、喉の奥から野獣のような唸り声が響く。
その姿は休日に姉によって叩き起こされた弟の姿に良く似ていた。
「貴方、暇なのでしょう?
丁度いいですから、あちらの害獣共を片付けてきて頂けませんか?」
再び飛んできた亜人の粗末な矢を携帯武器のメイスで叩き落しながら、シスターがガルーに「ちょっと焼きそばパン買ってきて」と同じようなノリで頼み込む。
「あ”? なんで俺が ───」
「─── そういうの今 良いですから。 早くして下さい。」
「・・・。」
諸事情でシスターに頭が上がらないガルーは、渋々といった様子で温かい寝床から這い出すと、面倒臭そうに亜人共の矢が飛んでくる方向に歩いて行った。
「・・・さて、アレも流石に亜人相手に不覚をとることは無いでしょう。
討論を続けましょうか。」
「・・・そうですか?」
姉貴分の欲目なのか何だかんだルガーを高く評価しているシスターに対し、私の脳裏には器用に亜人に負けて帰って来るルガーの姿しか浮かばなかった。




