人材ガチャ、SSR。
件の調査会議から数日後、私達は早々準備を終え、東の辺境都市を出立していた。
「─── 私が言うのもアレかもしれないが・・・これで良かったのかい?」
家馬車内部の椅子に腰掛けながら、【墓掘り学士】が言う。
その手にはハーブティの入った金属マグカップが握られていた。 [1]
グレイブが戸惑うのも無理は無かった。
何故なら件の調査会議はグレイブの発言以降、特に反対意見が出ることもなくトントン拍子で閉会してしまったのだから。
個人では とても支払い切れないような金額が動く調査会議が自身の一存で動いたともなれば、居心地の悪い気分にもなろう。
ただ、気の合う人間だけで構成された組織というのは、往々にして そういう状態になるものだ。
「いいんですよ。
私も【歩く災害】も特に希望はありませんでしたし。
それに今回が初めてでもないでしょう?」
「それはそうなんだけどね・・・。」
実際問題、未踏破の地域を調査するという冒険者稼業の性質上、調査会議は博物学や考古学などに秀でたグレイブの独壇場になりがちだった。 [2]
偶に私を含めた他のメンバーが調査区域に強い希望を出すこともあるが、それが無ければ大体 常に調査したい場所があるグレイブの意見が通ることになる。
恐らく学者として旅団を私物化しているような罪悪感でも抱いているのだろう。
全く、ルインにも これくらいの慎みというものを持ってもらいたいものである。
アイツったら予算横領かました後でも平気な顔して研究費全体の大部分を持って行くような予算案出してくるんだもんな・・・。
「何も困ることはないじゃないですか。
私達は次の調査区域に悩むことがなくなり、貴方は好きなように調査計画を組み立てられる。
・・・元々そういう契約だったでしょう?」
グレイブを旅団にスカウトしたのは他でもない私だった。
当時 個人で調査活動をしていたグレイブを口説き落とし、【傷だらけの男】にも駄々を捏ねまくって半ば無理やり団員として迎え入れたのだ。
その判断が正しかったのは今の彼女の立場を見て貰えば分かるだろう。
最初はスカーズの秘書のような雑用から始まり、今や個人で活動していた頃の数十数百倍もの資金を その一存で動かせる旅団の相談役のような地位にまで登り詰めた。
これは別に彼女が そう望んだからというワケではなく、ただただ その能力の高さ故だ。
─── 正直、他の冒険者に奪られる前にグレイブを確保できたのは私でも豪運だったなと思う。
それくらい冒険者としては重宝する人材だった。
[1] マグカップ:
大きな取手付きのカップという意味で、別に陶器限定の名称ではない。
アスカの旅団には木製や金属製、陶器製に果てには魔物の骨や牙などから削り出したものもあり、各々の好みで好きなタイプのマグカップを愛用している。
[2] 博物学:
動物・植物・鉱物など自然物を観察し、記録し、分類する学問。
グレイブは これら大よそ全てに精通した、一種の記録魔。




