調査予算調査
【あらすじ】
大口スポンサーである『枢機卿』から、聖都にある聖剣を盗み出せという無茶ぶり指名依頼を出されたアスカ達だったが、スポンサー本人の手引きもあり なんとか その世紀の窃盗事件を成し遂げたのだった。
<東部の辺境都市にて・・・>
「ふむ・・・。」
「う~ん・・・。」
件の『枢機卿』の依頼から暫く経った後、私と【イカレ修道女】は宿屋の一室を借り、旅団の団長と経理として二人で書類と睨めっこをしていた。
副団長である【動く要塞】には外回りに行って貰っている。 [1]
「・・・どうです、行けそうですかシスター?」
「・・・。」
シスターは片手で待てのポーズをしながら、羽ペンで決算用紙に物凄い速度で書き込んでいた。
やがて計算が終わるとペン立てに羽ペンを置き、私に記入済みの決算用紙を手渡してくる。
「確認しますね。」
「・・・お願い致します。」
私が用紙を受け取ると、普段は優雅な所作を心掛けているシスターも流石に疲れたのか、額に手を置いて椅子の背に体重を預け始めた。
その姿は完全に仕事に疲れたOLである。
「さてと・・・。」
一通りの仕事を終えてダラけ始めたシスターを視界の端に収めつつ、私は手渡された書類に視線を落とした。
片手に茶の入ったマグカップを摘まむと、口元で傾ける。 [2]
そこら辺に生えてたハーブで適当に作ったハーブティだが、悪くは無かった。
「・・・この収支なら行けそうですね。」
「・・・『枢機卿』が成功報酬に色を付けて下さいましたから。」
言葉遣いは至極上品だが、その声色からは「あれくらい当たり前」という高慢さが透けて見える。
実際、スポンサーのバックアップがあったとはいえ世紀の窃盗事件の実行役をやらされたのだから、普段は目玉が飛び出るような額でも安価に感じるのは分かる。
・・・というかコイツにとっては一昔前なら良く見た程度の額か。
私はシスターの実家がクソほど太かったことを思い出しつつ、予算の収支が書かれた決算書類を机の上に戻した。
「今年は既に結構な散財をしてしまいましたから『魔境調査』の続きは無理かと思っていましたが・・・何とかなるものです。」 [3]
『枢機卿』を筆頭とした先代からの太いスポンサーを引き継いでいる我が旅団だが、当然 無制限というワケではない。
人数を多く抱えている分 普段の生活費だけでもバカにならないし、それに加えてアホみたいに金を食う研究を抱えているメンバーも少なくない。
それらにリソースを割くと、本業である『魔境調査』に残すことが出来る資金は潤沢とは言えなかった。
もっとも、それは人里で依頼をこなして行けば埋まる程度の不足でしかないのだが。
「そうですね。
・・・それで、次はどの区域を調査するのですか?」
シスターは予算書類を机の上から片付けると、棚から古ぼけた地図を取り出して広げた。
それは先代である【傷だらけの男】の頃から使っている、東部魔境の調査地図であった。
[1] 【動く要塞】の事務処理能力について:
別に戦力にならないということはなく、むしろ首脳部の3人(アスカ・ルーク・【イカレ修道女】)の中で最も事務処理能力に優れる。
ただ そのせいで面倒な事務処理を押し付けられることが多く、他の首脳部も押し付けている自覚があるので、今回はルークを除いた二人で面倒な決算処理を行った。
[2] マグカップ:
東方の異国でしか生産されない陶器の一種なので実はメチャクチャ高価。
割れやすいので冒険に持って行くには向かないが、アスカやシスターは特に執務の供として好んで使う。
[3] 魔境調査:
冒険者の本業のようなもの。




