ギャグ。
<数日後・・・>
「─── クックックックッ・・・。」
『・・・そんなに面白いだろうか?』
『枢機卿』の仕事を終え、ほとぼりが冷めた(他の事件で それどころでは無くなったともいう)頃にアスカ達の一団は聖都を出立した。
旅団の馬車の列、その最後尾 ─── 殿に位置する誰にも会話を聞かれない配置で【歩く災害】と【動く要塞】が馬を並べていた。
いつもは乗馬を嫌がるルインも、このときばかりは馬上での会話を愉しんでいた。 [1]
『まぁね。
それはそうと君の兄弟分、【鋼の戦車】だったかな。
彼の葬儀は済ませたのかい?』
ルークの魔王国語に対し、ルインは当たり前のように同言語で返す。
アスカ程ではないが、ルインもまた言語学は得意な方であった。
『あぁ・・・丁度 聖都に かつての同胞達が大勢来ていてな。
彼らに旧友の首と形見を預けた。 [2]
・・・私にとっては裏切り者でも彼らにとっては英雄だ。
恐らく盛大に弔ってくれるだろう。』
『ふぅん・・・魔族が大勢ね・・・。』
ルインは またしても口元を押さえて肩を震わせ始める。
1の情報から10を推測できる知能があるだけに、状況が面白くて仕方が無かった。
気を抜くと また笑い死に一歩手前まで行ってしまいそうだ。
『それで・・・アスカのことだが・・・───』
『ん?
あぁ、そうだったね。
私が思うに、ここだけの秘密にしておいた方が良いだろう。』
『・・・。』
ルインの言葉に、ルークは複雑そうな唸り声を上げる。
だが、そこには葛藤以上の安堵があるように見えた。
『私達だけのことを考えるなら、仮に世界がどうなろうと冒険者稼業は続けられる。
いや、むしろ世界が混迷を極めた方が儲けが良いとさえ言えるだろうね。
そんな中、どうして私達の旅団長が持つ黒い短剣が実は『聖剣』で、その持ち主たるアスカが『勇者』だなんて言う必要があるだろうか。』
『それはそうだが・・・。』
ルークは複雑な内心を吐露する。
性格が最悪に近い反面、合理的で意外と口が堅く、今はまだ冒険者稼業を続けていたいという利害が一致していると分かっているルインにしか打ち明けられない話だった。
そうでなければ どうして言えようか。
─── かつて自身がNo.2として支えた組織の当代の長が『魔王』であり、今現在 自身がNo.2として支える旅団の当代の長が『勇者』などと。
『良いじゃないか。
むしろ、君は何を気に病んでいるんだい?
魔族としては魔王が誕生しても、勇者なんて誕生しない方が ずっとずっと良いじゃないか。』
『・・・。』
『それよりも今は、真面目に勇者を信じていながら全く気付く様子のない聖職者どもを嗤おうじゃないか。
全く、あんな有様で良く『哲学は神学のはしため』なんて言えたものだよ。』
『・・・・・・。』
『うん?
どうしたんだい?
そんな悪魔でも見たような顔をして。
教会は私にとっても そうであるように、君達にとって不倶戴天の敵だろう?』
───── だから笑いたまえよ、ルーク。
心底 愉しくて仕方が無いといった様子のルインを見て、伝承にある悪魔とは このような存在なのだろうなとルークは思った。
────────────────────
「─── どうです、シスター?
研究は進んでいますか?」
聖都を立って暫くして休憩の時間になった私は、真っ先に家馬車内の机で研究作業をしている【イカレ修道女】の元を訪れた。
シスターは何やら机の上に書籍を二つ開いて並べて、ノートにメモをとっている。
「ん?
あぁ・・・貴方ですか。
そうですね、取り敢えず今は新版と旧版の『選定の書』の記述の違いについて纏めているところです。」
植物紙を束ねたノートを覗いてみると、そこにはビッシリと それぞれの記述が並べられ、それに対して赤のインクで何やら注釈が所々に挟まれている。
どうやら かなり熱が入っているようだ。
「高い金を払って新しく聖書を買った甲斐はあったようですね。」
「それについては感謝していますよ、旅団長。」
全くそうは思っていなさそうな、挑発的な笑みをシスターは見せる。
シスターに研究資材として買い与えた新版(この場合、私の選定の書が旧版であり、そこから加筆・修正が加えられたであろう現行の選定の書を新版と言っている)は書きたての新書かつ、ちゃんとした写本工房で製本されたものだったので、なんと金貨20枚(約60万円)もした。
こればっかりは ちゃんとしたものを買わないと研究にならないので仕方が無いとはいえ、結構 腰に来る値段だった。
これが女に貢ぐ男の気分か・・・。
「この研究が実れば、もしかすると本物の聖剣の在処が分かるかもしれません。
その時はアスカ、今度こそ湖の底にあるか大岩の上にあるか賭け事をしましょうね。」
「いいですね。
・・・で、聖剣は実際どこにあると思います?」
「・・・はて、今のところ見当もつきませんね。
そういうアスカは何処にあると思います?」
「私としては あの婆様の言葉から察するに ───」
そうして私は近くの椅子に腰掛け、愛剣をポケットに入っている小さな砥石で研ぎながら、本物の聖剣の在処についてシスターと論議した。
ふと愛剣に目を向けると、心なしか いつも以上に剣身に艶が出ていた気がした。
・・・仕上げに使った刀剣油が良かったのだろうか?
[1] 【歩く災害】の乗馬技術について:
嫌がってる割には上手かったりする。
しっかりと調教された馬であれば、馬の背に寝そべりながら足の操作だけで制御できる程度には上手い。
[2] 【鋼の戦車】の首と得物について:
流石のアスカ達も気を遣って質に出すのは止めた。
倫理観の問題ではなく、それくらい【動く要塞】には世話になっている自覚があるから。
ルークの兄弟分でなければ普通に質に出してた。




