とある魔族と、聖堂騎士団。
「─── じゃっ。」
「ん。」
すっかり盛り上がってしまったルカとアスカは、酒場に入って数時間 ─── 日が暮れるまで呑み続けた後、酒場の前で別れ、それぞれの帰路についた。
元来 酒に滅法強いルカと、そもそも酒に致命的に弱いので水かミルクくらいしか飲まないアスカの対酌なので どちらも酔っ払うということは無かったが、気分的には全身にアルコールが回っているくらい高揚していた。
─── それくらい楽しい対酌だった。
(それにしても驚いた。
まさかアスカが【傷だらけの男】の後継だったなんて。)
盛り上がった勢いで、ルカはスカーズの後継を知った。
スカーズは先代の盟友であり実質的な主でもあった人間で、かつて浮浪児だったルカからすれば自身を拾ってくれた父親のような存在でもあったのだ。
そんな存在から「お前が知る必要はない」と言われていたので詳しく詮索することは無かったが、まさか表稼業の方に あれほど気が合う同年代がいたとは。
少なくとも誰かと食事をして楽しいと思えるのは初めてだった。
こんなことなら少しくらいスカーズの言葉に反抗してみるべきだったか。
とはいえ信頼の置ける年長者の言葉に逆らってロクな結末を迎える物語は無いし・・・。
そんなことを考えながら、フラフラと今日の宿を探している時だった。
「─── 止まれ。」
ふと後ろから高圧的な声を掛けられた。
ルカは黄昏時の薄暗い街道を振り返った。
そこには甲冑を身に纏った平原人が何人も立っていた。
上から羽織ったサーコートの柄から、それが聖堂騎士団であるということが分かった。 [1]
「・・・なに?」
「貴様、魔族だな。」
そう言って、聖堂騎士団の先頭に立つ男が腰に佩いた剣を抜いた。 [2]
問答無用で奇襲しないだけ騎士としての誇りというものがあるというべきか。
「聖剣を返せ。」
「・・・先に言っておくけど、人違いだから。」
自身のところで動いたのはNo.2である【鋼の戦車】の暴走だし、最終的に手にしたのは表稼業の方を継いだアスカである。
・・・といっても分かっては貰えないだろうが。
常人では脅威と認識することも出来ないような速度で、剣が突き出される。
ルカはそれを掌で受け止めた。
「!!?」
「・・・力を感じる。
『対魔』の祝福が施してあるのね。」
───── メキメキッッ
ルカは そう言いながら、対魔の祝福が施された剣身を素手で握り潰した。
祝福に反応してか、ルカの手が熱い鉄に触れたかのように、肉の焼ける音と共に煙を吹き出す。
ルカは聖堂騎士を蹴り飛ばすと、手元に残った剣を街道の脇に放り捨てた。
「・・・一筋縄ではいかんか。」
蹴り飛ばされた聖堂騎士が、何事も無かったかのように立ち上がる。
確かに内臓と骨を砕いた手応えがあったのだが・・・。
「『再生』の奇蹟。」
「左様。」
再生の奇蹟。
それは聖職の戦士が不死身とされる所以。
神の御業によって少しばかりとはいえ不死性を得る強力な奇蹟であり、一時的に傷を負っても直ぐに完治するようになる。
「貴様の禍々しい力を、肌で感じる。
・・・大成する前に討ち取らねばならん。」
そう言って、聖堂騎士は従騎士から2メートル程度の歩兵槍を受け取った。 [3] [4]
穂先に返しの付いた豪奢なその槍には、先程の剣よりも強い対魔の祝福が施されている。
こればかりは、ルカも無手で相手をすることは出来ない。
「・・・はぁ。」
ルカは諦めたように溜息をつくと、杖代わりに使っていた槍の穂先に巻いていた布を取り払った。
中からアスカの愛剣のそれに良く似た漆黒の穂先が姿を現す。
それを見た瞬間、聖堂騎士は全身の肌が泡立つのを感じた。
向かい合うルカの圧力が、急激に膨れ上がるのも。
「分かった。
相手をしてあげる。」
先程まで浮浪者といった様相だったルカが、まるで玉座に君臨する王者のように聖堂騎士を手招きした。
「・・・。」
それに対し聖堂騎士は、特に激高するでもなく冷静に全身で歩兵槍を引き絞った。
奇しくもその構えは、ルカの組織のNo.2であったチャリオットのものに良く似ていた。
得物こそ違えど、辿り着く極致は似たようなものだということだろうか。
聖堂騎士が踏み込む。
チャリオットのそれと同じく、音も衝撃も置き去りにした神速の突き。
ルカは それを ───
───── ズッ・・・
「・・・ごふッ。」
「・・・私に挑むには、力量が足りなかったようね。」
─── 正面から破った。
聖堂騎士の穂先が届く前に、ルカの槍が聖堂騎士の心臓を貫く。
聖堂騎士は血反吐を吐きながら、たたらを踏んだ。
「・・・っ!
あぁ、神よ・・・これが私の運命なのですね。」
再生の奇蹟を宿した聖堂騎士はルカの槍を自身の身体から引き抜こうとしたが、その時なにかに気が付くと、そのまま全てを悟った穏やかな顔で絶命した。
再生の奇蹟を宿しているはずの聖堂騎士の肉体は一切再生する様子を見せず、ダラダラと血を流し続ける。
───── ドサッ・・・
ルカは聖堂騎士が絶命したのを確認すると、そのまま槍を遺体から引き抜いた。
鈍い音と共に聖堂騎士だったものが倒れる。
「生半な奇蹟では、この槍には抗し得ない。」
ルカは残りの聖堂騎士団メンバーを見た。
既に日は落ち、夜目の効くルカの方が断然有利になりつつあった。
それはランタンなどの明かりがあろうと揺らぐことはない。
「・・・疾く去れ。 私は聖剣を持ってない。」
そう言うものの、残された聖堂騎士団に聞く耳を持つ者はいなかった。
全員、殺気立って剣を抜き始める。
「愚かな・・・。」
ルカは突っ込んでくる聖堂騎士団に対して、自らの槍を振りかぶった。
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<数分後・・・>
「・・・はぁ。」
そこにはルカの手によって蹂躙された聖堂騎士団の死体の山があった。
高レベルの僧侶であり、同じく高レベルの戦士でもあるはずの強者たちの部隊は、一人の魔族の手によって全滅した。
無論、聖堂騎士団のメンバーが これで全てというワケではないが、それでも大幅な戦力の低下は免れないだろう。
(早く寝たい。)
そんな大事を引き起こしたルカが何を思うかといえば、ただ早く寝たいとだけ考えていた。
既に日は落ち、今から宿を探すにしても部屋が空いているかどうかは怪しい。
(いっそ橋の下で野宿でもしようか・・・?)
そう思い始めた時だった。
「─── 探しましたよ、魔王様。」
自身の尊称を呼ぶ声が、夜闇の底から聞こえた。
[1] サーコート:
中世騎士が鎧の上に着る布製の上着。
盾や旗などと同じく紋章を描かれており、それを見れば どこの誰か分かるようになっているが、なにぶん種類が多いクセに下手に間違えるとエラいことになりかねない厄介な性質を持つ為、見分けるだけの専門職すら存在する。
[2] 聖堂騎士団の帯剣について:
教皇から直接認可を受けている為、刃を持つ武器の所持を禁止されている修道士としての身分を持ちながら、騎士としての帯剣が叶っている。
[3] 従騎士:
正式な騎士になる前の見習い、また戦闘補助要員。
[4] 歩兵槍:
1.8m~2.4m ほどの、盾と併用するような白兵戦の標準装備。




