ルークの愚痴
『・・・兄弟。 旧き友よ。』
私と【歩く災害】が死体漁りをする中、【動く要塞】は【鋼の戦車】の遺体の前で跪いて語り掛けていた。
その傍に、【イカレ修道女】が歩み寄る。
「・・・祈りの言葉が必要ですか?
もっとも、あなた方の宗派とは異なるものになりますが・・・。」
「・・・頼む。」
ルークが頷くと、シスターは聖職者らしく死者を慰める祈りの言葉を唱え始めた。
シスターの祈りを聞きながら、ルークは ただ静かにチャリオットの遺体を見つめ続ける。
そこにはチャリオットの死に対する哀しみよりも複雑な感情が込められているように見えた。
『火葬は必要ですか?』
『・・・。』
おおよそ金目のものを掻き集め終えた私は、パンパンになった革の大袋をドサッと床に下ろして魔王国語でルークに話しかけた。
確か、魔族の宗教では遺体は火葬するのが正式な葬儀だったはずだ。
しかし、ルークは首を振った。
『心遣い、感謝する。
しかし そこまでしてやる必要はない。
この者は、邪道に手を染めたのだ。』
『・・・邪道、ですか。』
恐らく私が知るべきことじゃないんだろうなと思ったので、深くは聞かなかった。
『そうだ。
我らは、それに縋るべきではない。
・・・そんなことは、かつての我が友であれば分かっていたはずだというのに。』
『・・・。』
曖昧な表現で濁しているが、どうやら話を聞いて欲しいらしい。
普段からルークには世話になっている自覚があるので、愚痴くらい聞いてやろうと思った。
『─── 可能性が、人を狂わす。
・・・【傷だらけの男】の言った通りだったな。』
よく分からないが、チャリオットは可能性に狂ったとルークは見たらしい。
何だろう・・・死海文書でも見つけたのかな? [1]
『アスカも努々気を付けるといい。
眼前に無限の可能性が広がったとき、正気を保っていられるかどうか。』
『私は別に大丈夫ですよ。』
何と言っても転生前に天使から そういうのは一通り提示されている。
もっとも、私が完璧過ぎる故に全て必要には感じなかったが。
『・・・そうだな。
少なくともアスカは、可能性に狂うことは無いだろうな。』
少し憐憫の情を感じる声色の意図が分からず、私は首を傾げた。
[1] 死海文書:
塩分濃度の極めて高い塩湖である死海から発見される古代以前の文書群。
場合によっては神代~先史時代の超古代文書が発見されることもあり、神学および考古学に強烈な変化を齎すことも少なくない。




