物理的に無敵の人
一歩 踏み出した私の後に続いて、【イカレ修道女】が同じように一歩を踏み出す。
その背後で、【歩く災害】が短杖を構え直したのが音で分かった。
どうやら魔術を温存していたのは嘘ではないらしい。
『!!』
こちらに気付いたらしい【動く要塞】が、敵 魔族に こちらの存在を悟らせない為か、私もビックリするくらい自然にバランスを崩す演技をして見せた。
『衰えたな、兄弟!』
『・・・そうとも、我らは兄弟だった。』
私は後続のシスターのペースに合わせるようにして、少し背を前に倒した。
背後から甲冑に強い衝撃が走ったような硬い音が聞こえる。
『!?』
『─── だが、最早 違えた道が再び交わることは無い。』
───── ガンッッッ
振り返った敵 魔族の側頭部を、シスターのジャンピング・メイスの一撃が捉えた。
私の背を蹴ることでの更に一段 高く跳んだ大上段の一撃は、普通であれば頭蓋が潰れても おかしくない威力ではあった。
─── そう普通であれば。
『・・・そうだな、我らは最早 兄弟ではないのだった。』
「!?」
確かな手応えを覚えていたシスターが、驚愕した様子で振り返る。
そこにはメイスの一撃を受けて片角が折れた、しかし大して損傷を負っている様子もない魔族が立っていた。
側頭部への一撃で傾いた首を、ギギギギギッといった様子で ゆっくりと重々しく再びリビング・ルークの方へと向ける。
『かつて道を共にした者への手向けとして私 直々に葬ってやろうと思っていたが・・・止めだ。
我らは我らの道を、例えどれだけ誉がなくとも確実に歩む。
・・・それが貴様への敬意と思うが良い。』
敵 魔族は そう言うと、誰かに合図するかのように片手を上げた。
それを見て嫌な予感を覚えた私は、隠密を投げ捨ててルイン・ウォーカーへと大声で合図を送る。
「─── ルイン、閃光!」
「!?
『短縮詠唱:魔術の閃光』!!」 [1] [2]
反射的にルイン・ウォーカーが短杖を振って、敵 魔族の眼前に強い閃光を作り出す。
日頃から緊急時の動きを訓練している私を含めた味方は対閃光体勢を取っていたので ある程度無事だったが、前世でいうスタングレネードへの対処法など知る由もない敵 魔族は顔に手を当てて唸っていた。
─── そして その後ろで、同じように無数の黒装束の魔族達が悶絶していた。
どうやら部下を何人も背後に待機させていたらしい。
私はシスターとルークを先に行かせると、敵と同じように閃光を食らって悶絶している助祭を担いで聖剣の間へと続く扉の中へと滑りこんだ。
「ルイン、ここを爆破して時間稼ぎしますよ!」
「なんだって!?」
「時間が無いんですよ、早く!!」
私はルイン・ウォーカーを急かしながら、ルークに助祭の身柄を預ける。
背後からは、早速 閃光の衝撃から立ち直ったらしい魔族達の慌ただしい足音が聞こえてくる。
「相変わらず人使いが荒いなぁ! 君は!!
『短縮詠唱:魔術の爆発』!!!」 [3]
ルイン・ウォーカーが放った青白い爆発によって崩れる天井の瓦礫を避けながら、私達は その奥、聖剣の間へと走った。
[1] 短縮詠唱:
鍵言に使われている単語の頭文字だけを抜き出して詠唱すること。
前もって術式に設定しておくことで、緊急時に手早く魔術を発動させることが出来る。
ただし鍵言を短くすると誤爆の危険も高まるので、短縮詠唱時は威力が低めに設定されていることが多い。
[2] 魔術の閃光:
アスカと【歩く災害】が共同開発した新しい系統の魔術の一つ。
いわゆるスタングレネードだが、魔術の術式として再解釈したことによって空中で自由に発動させられるようになったことを考えると、ある種スタングレネードの上位互換とも言える。
[3] 魔術の爆発:
その名の通り、魔術的過程によって任意の場所に爆発を引き起こす・・・ただそれだけの、故に強力な魔術。
応用性が極めて高く、それ故かコストも極めて高くなっている。




