無敵の人について。
「─── で、アイツ誰なんです?」
『聖剣の間』へと続く回廊を駆けながら、【動く要塞】に先程の魔族のことを尋ねる。
「・・・。」
それに対してルークは気まずそうに口を閉ざした。
・・・え、何?
浮気が妻にバレた夫みたいな雰囲気出すじゃん・・・。
「・・・別に深いことを聞くつもりはありませんよ。
ただ追ってきた時に対処できるよう、概要だけでも教えて欲しいだけです。」
少なくとも【傷だらけの男】が私に教えるべきではないと思っていることまで聞くつもりはない。
本当に、ただ例の異常に頑丈な魔族に対して策を練る為に必要な情報が欲しいだけなんだ・・・。
正直、ルークと あの魔族の関係性とかは どうでも良い。
「・・・アレは【鋼の戦車】の通り名で知られている。」
「高額賞金首じゃないですか。」
確かアイアン・チャリオットは約300ゴルド(金貨300枚、日本円の感覚で およそ一千万)の大物賞金首だったはずだ。 [1]
全身 金属鎧で武装している巨漢の魔族という話だったから見かけ次第ぶっ殺そうとは思っていたが、意外と近くにいたんだな・・・。
「金属鎧は重晶鋼製、下鎧に神銀の鎖帷子を装備してる。」 [2] [3]
「はい?」
・・・それ何てクソゲー?
ルークの言葉に私は耳を疑った。
タングステンの全身金属鎧とミスリルの全身鎖帷子なんて、用意しようと思ったら相場で金貨三千枚(日本円で九千万~一億)は欲しいぞ。
しかも用意したら用意したでタングステンが重すぎて人間に装備できるもんでもないし・・・。
だが、仮に その二種類の鎧を装備できたとしたら、正に無敵だろう。
タングステンとミスリルは、市販で手に入る金属の中でも最強の2種だ。
タングステンは前世でも最強の金属だったし、ミスリルの鎖帷子なんてドラゴンの歯でも貫通出来るか怪しい。
「正直、負けはしないが勝ち切れる自信がない。
・・・どうする、アスカ。」
「・・・決まってるじゃないですか。」
聞き出した表面的な情報だけでも、私の中の方針を固めるには十分だった。
「─── さっさと聖剣だけ盗って逃げます。
そんなバカみたいな装備しているヤツの相手してたら夜が明けちゃいますよ。」
「そうだな。」
私とルークの意見は一致した。
何もバカ正直に無敵キャラを相手する意味もないだろう。
少なくとも、今回の依頼に そんな達成条件は記載されていないのだから。
[1] ゴルド:
通貨の基本単位の一つ。1ゴルド = 一般的な金貨1枚。
[2] 重晶鋼:
バカみたいに硬くて、バカみたいに重くて、バカみたいに熱に強い金属。
市販で手に入る金属の中では最も強い金属の一つだが、前述の「バカみたいに重い」という特性から これ単体で道具や装備に使われることは まず無い。
[3] 神銀:
某 魔法の指輪をめぐる物語が初出のファンタジー金属。
“ 銀のように輝き、鋼より強く、羽のように軽い ”のが特徴。
タングステンと比べて魔術や奇蹟への耐性・親和性に優れていて、併用されると まず尋常の手段では装備者に致命的なダメージを与えられなくなる。




