招かねざる客
<Side:【動く要塞】>
ルークは同胞が ─── 否、かつての同胞が身内の3人に鏖殺されていく様子を、どこか哀しみと同情が入り混じったような複雑な心境で眺めていた。
正直、偶然ではあろうがアスカが殿として助祭の護りにつけてくれたことは、ルークの精神衛生上かなり助かることであった。
恐らく道を違えたとはいえ、同族の、それもかつては同じ仕事をしていた同胞を殺したくは無かった。
(それにしても・・・何故 彼らは聖剣を求めるのか・・・?)
ルークは本来の言語 ─── 母国語にあたる『魔王国語』で思考する。
魔王国とは魔族達の宗教的指導者にあたる魔王が かつて建国した国だが、しかし今は どうしようもないほど細かく分裂し、その栄華は遺跡のみが語る亡国だ。
ただ その影響は昨今まで文化面で色濃く残っており、魔族間で使われる言語は未だに魔王国語で統一されている。
(我らが友人、【傷だらけの男】は聖剣など天地が引っ繰り返っても欲しがらぬような男・・・。
だが、かといって我ら魔族が聖剣を手にしたとしても何の意味もないことは明白・・・。)
ルークは平原人 [1] の分かたれた言語 [2] を広く浅く履修している為に、普段の言葉遣いは端的だが、母国語の魔王国語となると魔族の中でも かなり流暢な方だった。
『何故だ・・・何故、彼らは聖剣を求める?』
『─── それはな、我らの悲願を達する為に他ならん。』
『!?』
誰も答えるはずのない魔王国語の呟きに、暗闇の奥から答える声があった。
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「─── この!(バキッ)
アホンダラがぁ!!(バキッ)
どこに!(バキッ)
団長に牙を向ける!(バキッ)
団員がいますかぁ!!(バキッ)」
黒装束の魔族を全滅させた後、暴走して襲い掛かってきた【イカレ修道女】に馬乗りになった私は、バイザー越しにシスターの頬を往復ビンタしていた。
正直バイザーを取っ払って直接顔面を殴っても良いが(どうせ自分で治すので)、この後のこともあるので衝撃で脳を揺らすだけで留める。
「あ、アスカ・・・分かりましたから ─── ぐふっ!」
「本当に分かってる奴は毎回毎回 私に襲い掛かってこないんですよ!(バキィッ)」
今までの鬱憤もあり、私はとうとうグーで殴打した。
バイザー越しとはいえ結構衝撃が走ったはずだ。
「そこら辺にしたまえ、アスカ。
そろそろ仕事に差し支える。」
「フーッ、フーッ・・・。
途中からサボタージュしていた貴方に言われたくはありませんが、確かに その通りですね。」
私はグッタリした様子のシスターから離れた。
ブーツの底から、部屋中に散らばった魔族の血肉を踏む嫌な感触が伝わってくる。
「人聞きが悪いね。
私は この後に起こるであろうハプニングに備えて魔術を温存しているのだよ。」
「ハプニングって何ですか、ハプニングって。
後は この奥にあるという聖剣を頂いていくだけでしょう?」
───── バコォンッッッ
私が そう言って肩を竦めた瞬間、部屋の外から凄まじい勢いの破砕音が響いた。
「・・・。」
「─── ほら、起こっただろう?
ハプニング。」
私は再び溜息を付くと、とりあえず血溜りの中でグッタリしているシスターを引っ張り起こした。
[1] 平原人:
ホモサピエンスを表す俗語。
基本的に貧しくも穏やかな平原を好むことから、他種族から そのように呼称されている。
ただ平原を超えて広く分布していることも確かなので、オルディアのニュアンスとして「普遍的な人間」という意味合いも含まれている。
[2] 分かたれた言語:
平原人が普段使いする諸言語。
かつて平原人もまた一つの巨大な帝国に属していたが、とある事件から諸国へと分裂し、言語もまた分かたれた。
公用語として かつての帝国の言語は残ってこそいるものの、それは貴族の嗜みであり庶民が知る由もないので、国境を越える度に言語が変わったりする。




