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鏖殺

<Side:【歩く災害(ルイン・ウォーカー)】>


アスカが先頭の魔族を円盾(ラウンドシールド)の縁で殴り倒した瞬間、ルイン・ウォーカーは構えていた短杖(ステッキ) [1] の先端をアスカに迫る別の魔族へと向けた。


魔術の弾丸(マジック・バレット)


そして魔術言語 [2] で鍵言(トリガー) [3] を詠唱する。


─── 閃光、そして破裂。


アスカに迫っていた魔族へと閃光が走り、次の瞬間には上半身に風穴が空いていた。

魔族の凶刃はアスカへと到達する前に斃れる。


(ふむ・・・魔術的な対策はしてなさそうだね。)


そう判断したルイン・ウォーカーは、一気に勝負を付けることにした。

魔術は強力なものではあるが、反面 対策がし易いことも確かだ。

相手が対魔術を想定したアイテムを使いだす前に、さっさと勝負を決めてしまった方が良い。


魔術の斬撃(マジック・スラッシュ)


そう鍵言を詠唱して、短杖を薙ぎ払うように横に振った。

その線上には、こちらを脅威と見なして迫ってくる何人もの黒装束の魔族の姿があった。


─── 閃光、そして破裂。


しかし次の瞬間には、黒装束の魔族達は上半身と下半身が泣き別れしていた。

衝撃で夥しい血と(はらわた)が飛び出る。


(さて・・・私の仕事はこれくらいかな?)


ルイン・ウォーカーは天井から迫ってきていた もう一人の黒装束の魔族を『魔術の弾丸』で叩き落すと、周りを見て優勢を察し、友人達の事が終わるまでサボタージュすることを決め込んだ。


────────────────────


<Side:【イカレ修道女ルナティック・シスター】>


アスカが先頭の魔族を殴り倒し、ルイン・ウォーカーが続く魔族に『魔術の弾丸』を叩きこんでから少し遅れて、シスターは黒装束の魔族がひしめくモンスターハウスの中へと殴りこんだ。


手に持つのは全長50cmほどの短めのメイス。

柄は木、頭は放射状に並べられた金属板で作られたそれは、閉所でこそ威力を発揮する。




  接敵した魔族が短刀を突き出す。


  メイスを振りかぶりながら、その一撃を躱す。


  すれ違うようにして、魔族の側頭部にメイスを叩きこむ。


  角ごと魔族の頭蓋が砕け、脳漿(のうしょう)が弾け飛ぶ。




「・・・フフッ。」


手から伝わる快感に、ほぼ無意識にシスターは嗤った。

これこそが彼女が【イカレ修道女ルナティック・シスター】と呼ばれる所以の一つ。


─── 彼女は、暴力が大好きであった。




  背後から もう一人の魔族が迫る。


  振り返り様にメイスを叩きこむ。


  メイスが魔族の脇腹に入り、短刀がシスターの肩に入った。


  メイスの衝撃でよろめく魔族。




「クククククッ・・・。」


シスターは肩に刺さった短刀を痛がる様子もなく、何の躊躇もなく肩に手を伸ばして その短刀を引き抜くと、そのまま衝撃に怯んだままの魔族の首に短刀を突き刺した。

黒装束の魔族は首に刺さった自らの短刀に手を伸ばしながら、しかし引き抜くことも出来ずに そのまま斃れた。


「あぁ・・・やはり(いく)さとは この上ない娯楽ですね・・・。」


シスターは無造作に近くの魔族を殴り斃すと、そのまま血が噴き出している肩の傷口へと手を伸ばした。


「こうして私に快感と痛みを・・・生きている実感を与えてくれるのですから。」


シスターは酒よりも甘美な、アドレナリンによる酩酊を愉しんでいた。

そこでは自らに与えられる傷ですら、アドレナリンの(ツマミ)にしかならない。


《主よ、この身を本来あるべき形へ戻したまえ。》


そうして神聖言語 [4] により、短縮された祝詞 [5] を詠唱する。

その祈りは確かに届き、傷口に添えられたシスターの(てのひら)から優し気な光が漏れる。

そうしてシスターが手を離すと、そこには血の跡だけが残っていた。

あれだけ溢れていた血は、最早一滴も流れ出ていない。


─── これこそ、最も基本的な聖職者の業とされる『回復』の奇蹟 [6] である。


短縮された祝詞なので止血程度だが、それでも戦いを続けるには十分だった。


「さて・・・───」


血が止まったシスターは、そのままメイスを構え直す。


「─── 次の お相手は誰でしょうか?

私、とっても愉しみでなりません。」




このアドレナリンの酔っ払いの暴走は、遂に敵味方の区別もつかなくなってアスカに殴り掛かり、大真面目にビンタされるまで続いた。 [7]




[1] 短杖:

 某 魔法学園の映画で出てくるようなタイプの収束具(魔術や魔法の性能を高める装備のこと)。

 持ち運びのし易さと収束具としての性能のバランスが良いのが特徴で、純粋な魔術師や魔法使いが好んで持ち歩く。


[2] 魔術言語:

 神代の頃、『魔術王』と呼ばれた偉大な王が悪魔と取り決めた契約が端緒となっていると言われる魔術用の専門言語。

 プログラム言語のようなもので、会話に用いるには致命的に向いていない。


[3] 鍵言トリガー

 魔術の発動用に設けられた、専用の魔術言語。

 これを設けない場合、魔術文(魔術の基本仕様を決める文章)をフルで詠唱する必要があり、発動までに滅茶苦茶 時間が掛かる。


[4] 神聖言語:

 人ならざる言葉である天使語に、人が使い易い音と文字と意味を当て嵌めたのが端緒とされる言語。

 端緒が端緒なので その知識は教会によって厳重に管理されており、教会の下で研鑽を積んだ聖職者にしか その言語の詳細は開示されない。


[5] 祝詞:

 神聖言語によって構成された文章。

 これが意味を成した時点で力を持ってしまう為、下手な祝詞を唱えると大変なことになる。

 聖書の一節フル詠唱が理論上最高火力だが、意味さえ通ってれば良いので短縮詠唱も可能。


[6] 奇蹟:

 祝詞が意味を成し、力を持ったものの中で効果が分かっているもの。

また、効果があると教会に認められているもの。

 中には禁忌指定されているような凶悪な奇蹟もある。


[7] 【イカレ修道女ルナティック・シスター】の暴走:

 シスターがアドレナリン酩酊状態になることで起こる現象。

 この状態になると、敵味方関係なしに近づく者 全て殺しに掛かるようになる。

 ただしアスカの致命的な運の悪さと嚙み合って、大抵 被害に遭うのはアスカのみである。

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