それはそれ、これはこれ。
「─── ようこそ いらっしゃいました。
アスカ様でいらっしゃいますね?」
特に何も問題なく大聖堂の裏口へと続く地下道を抜けた後、奥の扉をノックすると中から男の声が聞こえた。
「そうです。
『枢機卿』の依頼通り やって来ました。」
そう言うと、ロックが外される音と共に扉が外向きに開いた。
真っ暗闇だった隠し道に、燭台の強い光が入ってくる。
「どうぞ、こちらへ。
話は伺っております。」
裏口の扉で待機していたのは、衣装から判断するに助祭の男だった。
私は軽く挨拶すると、後ろに続いていたメンバーが全員 隠し道から出てくるのを確認した。
【歩く災害】に続いて、巨漢の【動く要塞】がヌゥっと這い出てくる。
「─── ・・・『魔族』ですか。」
助祭はリビング・ルークの側頭部から生えた一対の角を見て、ボソッと呟いた。
そう、リビング・ルークは いわゆる魔族である。
「え、何か文句あります?」
「えぇ、こちらは大聖堂ですから。
いくら後ろ暗い仕事とはいえ、魔族の穢れを持ち込むことは許されません。」
あ~ね、魔族の穢れね。
特に聖書にも記載がない、差別意識からくる迷信ね。
「どうします、ルーク?
コイツ、こんなこと言ってますよ?」
「別に ───」
「─── そうですよね、とっても傷つきましたよねルーク。」
「あー、これは許されないねぇ。
どれくらい許されないかというと、ちょっとした小遣いを貰わないと ここをテコでも動かないくらいは許されないねぇ。」
「ほら、貴方も聖職者である意識が欠片でもあるのなら この憐れな魔族に金貨の一枚でも恵んで見せたらどうです?」
リビング・ルークの後ろからひょっこり現れて裏口の扉を閉めた【イカレ修道女】も加わって、乙女3人で助祭を精神的に責め立てる。
差別を利用した、逆カツアゲともいう。
「いえ・・・あの・・・───」
「─── ナマ言ってるんじゃありませんよ、『枢機卿』の手先の分際で。」
「─── 私達は別に君を殺しても依頼を達成できる見込みがあるんだよ?」
「─── ほら、大聖堂勤めの助祭なら金貨くらい持ち歩いているでしょう?」
「・・・。」
リビング・ルークが呆れとも憐憫の目とも言えない視線を私達と助祭に投げ掛ける中、私達は助祭に詰め寄って金貨を巻き上げた。
なに、正当な慰謝料というものだよ。
「じゃ、早速案内して下さい?
次ナマ言ったら今度こそ殺しますからね?」
「はい・・・。」
すっかり大人しくなった助祭に連れられて、私達は大聖堂の中を進む。
やはり暴力、暴力は全てを解決する。
まったく・・・確かに魔族は私が生まれた文明圏からすれば不俱戴天の敵だが、それにしたって差別は良くないと思うワケですよ。
まぁ別に この助祭が特別おかしいという訳でもないが・・・───
「・・・?」
その時ふと、私は違和感を覚えて助祭の肩を掴んだ。
「・・・何か。」
まだ何かあるのかと私の方を怪訝そうに振り返った助祭だったが、私の険しい顔を見て表情を引き締めた。
(動くな、そして黙ってろ。)
私がそれっぽいハンドサインで助祭に伝えると、剣呑な雰囲気を察した助祭は激しく頷いた。
私は足音を殺して助祭より前に出る。
助祭からランタンを預かった状態で愛剣を抜き、助祭のフリをして暗い曲がり角へと差し掛かった。
強く踏み込む足音。
刃同士が擦れる音。
火花。
曲がり角の影から、黒装束を着た何者かが短刀を持って飛び出してきた。
しかし それを察していた私は、愛剣である大型短剣で短刀を流し、そのまま黒装束の足を払って その体幹を崩す。
バランスを崩して前へと倒れ込んだ黒装束のフードから、一対の角が覗く。
それを見て瞬時に相手が魔族だと察した私は、躊躇なく その首に愛剣を振り下ろした。
「─── 死ね! 魔族!!」
・燭台:
蝋燭を立てて固定するための台のこと。
・助祭:
司祭の下位の聖職位階。助手のようなもの。
・魔族:
アスカの生まれた文明圏の天敵である人類。
東側の文明圏を主な生息域とする為 基本的にアスカが活動する文明圏に入ってくることはないが、ある特定のイベント下では大人数が流入してくることがある。
先祖代々 殺し合ってきた種族なので、差別意識は ある程度仕方のないところはある。




