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聖都

「─── いや~、久しぶりですね聖都は。

どうです、シスター?

テンション上がりますか?」


「いえ、別に。

ただ大聖堂だけは巡礼しておきたいですね。」


イカレ修道女ルナティック・シスター】は一見冷静そうに そう言った。

しかし分かるぞ、友よ。

今 君のテンションは修学旅行に来た学生と同じか それ以上だな?


私達は今、聖都の白い石畳の上を歩いてた。

聖剣祭という祭りの最中だということもあって、普段は穏やかであろう古都も人々の喧噪に溢れている。

相変わらず良い都市(まち)だ。


「・・・それで?

『枢機卿』の関係者からの接触はあったんですか?」


裏路地に入ったタイミングでシスターに小声で耳打ちする。

少なくともハレの日の表通りでするような話ではない。


「・・・えぇ、前もって話のあった教会に礼拝に訪れたタイミングで接触がありました。

このメモの場所に待機している人員に声を掛ければ、今日の晩にでも潜入が可能だそうです。」


手渡されたメモを開くと、そこには大聖堂の裏口へと続く通路が描かれていた。

・・・これ、教会の重要機密では?


「・・・まぁ、いいです。

やるなら早い方が良いでしょう。

前もって準備は済ませてありますし、先方が良いと言うなら今日やりましょうか。」


「・・・今日やるのですか?」


(やま)しいことは早めに終わらせて、清々しい気分で聖都観光を楽しみたいでしょう?」


「・・・それもそうですね。」


流石シスター、話が分かる。

まぁもっとも、依頼の後に聖都を追われる可能性も十分に考えられるが。


そこまで話し終わったタイミングで、路地裏を抜けて表通りに出た。

そこは聖都へと聖剣祭のタイミングで巡礼に来た信徒達で ごった返しており、普段の静謐な聖都の様子からは考えられない熱気に包まれていた。


「『仕事』の時間が来るまでは聖剣祭を楽しみましょう?

ホラ、露店が こんなにいっぱい並んでいますよ?」


表通りには、聖剣祭を楽しもうと訪れた人々向けの飲食の露店が多く並んでいた。


「・・・私に露店の食事を楽しめと?」


しかし無駄にプライドの高いシスターは露店に未だ抵抗感があるようで、買い食いを勧める私に対して露骨に嫌な顔をする。

面倒臭いなコイツ。


「は?

露店の買い食いを楽しみにしていた私が下賤だとでも言いたいんですか?」


「いえ・・・そういうワケではありませんが・・・。」


面倒臭いので逆ギレしてやった。

こういうときにシスターの無駄に厳格な上下意識は助かる。


「あ~シスターのせいで気分が盛り下がりましたぁ。

これはもう、シスターに露店で奢って貰わないと機嫌が直りませんねぇ。」


「はぁ・・・そういう魂胆ですか。」


ようやく私の意図を察して合点がいった様子でシスターが溜息をつく。

そうだよ、最初からシスターの奢りで一緒に買い食いしないといけない状況に持ち込むのが私の狙いだったんだよ!

引っ掛かったな、バカめ!!


「まぁいいです。

・・・失礼、今よろしいですか?」


シスターが手近にあった露店の店主に声を掛ける。

お、チキンスープか。

いいねぇ、ジャンキーだねぇ。


「ん?

お客さんかな?」


そう言って、フードを被った露店商の店主が こちらの方を振り向いた。

・・・ん、ていうかこの声は ───


「・・・何をしているのですか、【歩く災害(ルイン・ウォーカー)】。」


それはいつもの魔女帽を どこかに置いてきたルイン・ウォーカーだった。

よく見たら脇に堂々と置いてある。


「おや、見つかってしまったかい。」


「見つかってしまったじゃありませんよ・・・何してるんですか、こんなところで。」


ていうか露店の設備どっから持ってきたんだコイツ・・・。


「いやなに、折角の祭りだからね。

少し小遣い稼ぎをと思って。

君達も是非、私の研究費用に寄付をしてくれたまえよ。」


クソッ、そういう魂胆か。

こんなことなら面倒臭がるルイン・ウォーカーに、変に料理やら商売やらを教え込むんじゃなかった。

・・・だがまぁいい。

この際、美味しいチキンスープが食べられるならそれで良いや。


「はぁ・・・どうやら今日はついてない日のようですね。

分かりましたよ、ではチキンスープを二つ。」


「そうこなくてはね。」


シスターが銅貨をルイン・ウォーカーに支払う。

それに対して、ルイン・ウォーカーは二杯のチキンスープを返して来た。


・・・見た目は美味しそうなチキンスープだ。

肉も多めだし、それなりに野菜も入ってる。


「さぁ、どうかな?」


「・・・。」


シスターが目線をこっちに投げ掛けてくる。

・・・分かってるって。


私は先んじて口の中に【歩く災害】が作ったチキンスープを入れた。

口の中で掻き混ぜてみる。


・・・味は悪くない。

いや、逆に悪くなさ過ぎる。

見た目で感じる水準より遥かに高いレベルの ”旨味” が味覚に押し付けられているような感じがする。


嗅覚と視覚が推定する味と一致しない不自然さに、私は思わずスープを吐き出した。


「ヴォエ!

これ麻薬が入ってるじゃないですか!!」


それを聞いた途端、シスターは手に持っていたチキンスープの器をルイン・ウォーカーにブン投げた。

ルイン・ウォーカーは それを軽々と躱す。


「おや、流石アスカ。

バレてしまったかい。」


「このカス!

なに考えてるんですか!?」


私は露店の中に踏み込むと、ルイン・ウォーカーの襟を掴んでガクガクと揺さぶった。


「いや・・・別に悪いことをしようとはしてないよ。

ただ私は商品が沢山売れるようにと中毒性を高めただけの無害な麻薬をだね───」


「用法用量を守って適正に使ったからってカタギに(ヤク)盛るんじゃありませんよ!

法律関係がガバガバだから公的には良くても、ウチの旅団のローカル ルールじゃ禁止って言ったじゃないですか!!」


「いや、これは禁止されたのとは別の配合だから。」


クソッ、前世の麻薬業界と同じような言い訳しやがって。

これだからカスは【歩く災害(カス)】なんだよ!

デフォルトで共感性が欠如してやがるぜ・・・。


とりあえずルイン・ウォーカーはバックドロップを決めて床に転がしてやった。

何かうめき声を上げているが知ったことではない。


「・・・仕方ありません。

シスター、これ(チキンスープが入った大鍋)を処分しますよ。」


「それは別に構いませんが・・・この店はどうします?」


「廃業に決まってるじゃないですか。

さっさと全部 片付けてしまいますよ。

全く・・・晩には仕事が控えてるっていうのに。」


そうしてルイン・ウォーカーの尻拭いとモラル講習をしている内に、聖都の日が暮れていくのだった。

・大聖堂:

 宗教的な中心地にあたる建物であり、信徒が一度は巡礼したいと願う聖地の一つ。


・【歩く災害(ルイン・ウォーカー)】のチキンスープ:

 多福感を覚える中毒性の強い麻薬の入ったチキンスープ。

 面倒くさがりのルイン・ウォーカーにアスカが教え込んだレシピのスープが元になっており、別に麻薬を入れなくても鶏肉のジューシさとスパイスの香ばしさで それなりに売れたはずだが、ルイン・ウォーカーが化学屋ということもあって そこで薬を入れないという妥協(?)を許さなかった。

 異世界における現行法では麻薬への不理解もあって完全に合法であり、公的には全く問題のない代物。


・銅貨:

 日本円の感覚で2~300円くらいの硬貨。

 庶民が普段使いするのは基本コレ。

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